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沈黙が薄暗い部屋の中を満たしたその時、口を開いたのは彼女だった。


「抱いて」


その言葉を聞いたとき、耳を疑い、声が出なかった。
それまで何を話していたのか、何を見ていたのかすら思い出せない。


彼女は、また、言った。
「抱いて」


本当に、いいのだろうか。
本当に?


金色の長い髪が月の光を浴びて青く輝く。
俺の骨ばった指が不器用に彼女の線をなぞる。


女を知らないわけではないが、俺は震えた。
まるで初めて女を抱くような、言いようもない恐怖。


ゆっくりと顔を寄せ、唇を合わせる。
彼女のやわらかい唇を俺は夢中になって味わった。
最初は遠慮がちにしていた彼女も段々熱を帯びるようになって・・。


そこで俺は、彼女から離れた。


「だめだ」俺は彼女のそばから離れる。「リース、だめだ」
リースは青い目を見開いて俺をみた。
唇はまだ彼女の感触を残していた。
俺はその感触を拒むかのように無造作にぬぐった。


「デュラン」
彼女の声が遠い。
「うそじゃ、ないわ」
声が震えていた。
「抱いてほしいの」


俺は逃げるように彼女の部屋を出た。


彼女は半年後、ナバールに輿入れする。
頭の中に、ナバールの男の顔が見えた。
かつては一緒にひとつのものを目指した仲間。
そして今は恋敵。




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