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昨日は台風で大雨が降ってました。こちらは被害はありませんでしたが、場所によっては被害も出た模様です。このイラストのように穏やかな雨の日が好きなんですけど、ね。
それでは、今回も、お礼の壱頁劇場をどうぞw
桐原草さんの本日のお題は「虫」、ハチャメチャな作品を創作しましょう。補助要素は「夢」です。 #njdai http://shindanmaker.com/75905
「ねえ、お願いがあるんだけど」
学年で一、二を争う美人と言われる沙弥子さんに、学校の食堂で声をかけられたのは水曜日のお昼だった。私は急なバイトが入っていたのでほんの少し焦っていた。ご飯を食べる間だけならと言いながら、私は椅子に座ってA定食に箸をつけ始める。
「ドイツ語のクラスで一緒の松原君っているでしょ、あの人に告白されちゃった。どうしたらいいと思う?」
いや、どうするもこうするも私に関係ないのでは?
いきなりの展開に私はかなりたじろいだ。
「あなた、松原君と親しいでしょ。何とか断ってもらえないかと思って」
「いや、隣の席ってだけでほとんど話したことないです。困ります」
私は松原君のカマキリのような顔を思い出しながら、麻婆豆腐をスプーンですくう。
カマキリ君、沙弥子嬢はアンタなんか嫌だってよ。
心の中で毒づいておく。
「困ってるのよね。いろいろな人に告白されるんだけど、私は純一さんとつきあっているから」
そういうことですか。
私は話が読めた気がした。
純一さんというのは私の元カレだ。沙弥子さんの強引なアタックに、彼がよろめき、私たちは別れたのだ。最近あまり巧くいっていないという風の噂は、どうやら当たりだったらしい。
純一さんに手を出すな、と、そういうことですね。あんなヤツ頼まれたってお断りだ。
「つきあっている人が居るから、って松原君に断ればいいじゃないですか」
私には関係ありませんと言ってやろうか。大声で。
そのとき、沙弥子さんは「純一さーん」と大声で、通りかかった私の元カレを呼び止めた。
くやしい、謀っていたに違いない。
元カレは相席の私を見て、叱られたワンコのような顔をしながらこっちにやってきた。
「それじゃ、松原君にはその通りに伝えておいてね。私、急ぐから」
何も言えないでいる私をそのままにして、耳をしょんぼりさせたワンコのような元カレと勝ち誇った顔の彼女は去って行ってしまった。
何で私が! バイトの時間も迫っているというのに。あんなワンコに気を取られて何も言い返せなかったなんて、一生の不覚!
そこに通りがかったのは、ドイツ語のクラスで一緒の吉野さん。彼女には一度、貸してあげたノートを紛失されたことがあるのだ。
あのときの貸しは、今、返してもらうわよ。
「吉野さん、伝言を頼みたいんだけど」
吉野さんは私の言葉に何かを感じたのか、おどおどした目で振り向いた。
「今日の三時からドイツ語でしょ。私急なバイトが入っちゃって行けないの。だから、松原君に伝言を頼みたいのよ」
私も今日は出席出来なくてと渋るのを、無理なら他の人に伝えてもらって、と強引に説き伏せる。
他人の思惑なんて知ったこっちゃ無いわよ。私は今、モーレツに機嫌が悪いの。
「沙弥子さんからの伝言で、『私はワンコとつきあうのが夢なので、カマキリのような松原君とはつきあえません』ということなの。巧く伝えておいてね」
そして時間が迫っていたのであわててバイトに出かけていった。
一週間後、今日はバイトがないのでドイツ語の講義に出かけた。
そういえば松原君の件はどうなったんだろう。
一週間たって少しは良心がとがめていた私は、隣の席の彼を窺う。
目が合ったとたん松原君は私に話しかけてきた。
「ちょっと相談があるんだけど、いいかな?」
「な、なにかしら?」
内心かなり動揺しながら、何でも無い振りで答える。
「僕、実は沙弥子さんに告白したんだ。今日、その返事が返ってきたんだけど、それが、ちょっと訳わかんなくて……」
うわ、きちゃったよ。どストライクだわ。
冷や汗をぬぐいながら、私は相づちを打つ。
「何て言われたの?」
私はおそるおそる聞いてみる。
「『トップブリーダーになりたいから、昆虫博物館に行きたい』んだって。ねえ、これって、何かの謎かけかな? つきあってもらえるって事なんだろうか? それとも体のいいお断りなのかな? 女の子のことはわからなくて」
真剣な顔で女性心理について質問してくる松原君に、私はなんと答えてあげればいいのだろうか。ここまでの改変がなされるには、幾人もこの伝言に関わっているに違いない。
松原君を前に笑うわけにいかず、問い詰めるわけにいかず、私は髪をかき上げたり、時計を見たりして、ひたすら授業開始の合図を待っていた――。
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