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 雷の音が鳴り響く。そんな夏のある日、ふたりは偶然その場所に居合わせた。馬好きらしいふたり、もちろんそこは厩舎である。今まさにざーっと降りそうな気配がしているが、一行に雨も嵐もやってこない。が、本部までとなると些か距離がある。その間にふって来てしまっては元も公もなかった。
 雷だけがごうごうと鳴り響く。
「ひゃっ! 」とクリスは思わず声をあげ肩をすくめた。
 パーシヴァルは見て見ぬ振りをしてこっそり脳裏に焼き付けた。なんて可愛らしい!
「誰にもいうなよ」
 念には念を。十分込めて言い募る。
「もちろん言いません」
「ホントだな」
「本当です」
 だったら何故、パーシヴァルはあんな楽しそうな微笑を湛えているのか。
それから暫くして徐にパーシヴァルの口が開いた。
「ただ……――」
そんな可愛らしいあなたを独り占めしていいものかと。
クリスの顔色がくるくる変わる。
「貴様! 馬鹿にしているのか!? 」
 と凄みながらも雷音に身を竦める。対面も何もあったもんじゃない。
 パーシヴァルがくすくす笑っている。
 怒ったクリスがパーシヴァルを睨みつける。が、お構い無しである。
 「おてあげ」とばかりに手を上げているが、緩んだ顔だけはどうにもならない。しまらない。
 ザー―……ザーー……
 雨が降り始めた。
 仕方なく身を寄せ合う。
 雷が鳴る。
 びくりとクリスが肩を震わした。
 その肩口が互いにぶつかった。
 慌てたクリスは咄嗟に身を引く。顔が赤い。と、当たり前だが雨に濡れた。
 一瞬逡巡するとパーシヴァルは真面目な表情を繕った。
 さり気無く腕を伸ばすと少しだけクリスを引き寄せた。
 クリスの困ったような声が漏れる。しかしパーシヴァルは飄々としている。
「濡れます」
 当たり前のように言われると、それは大したことでないような気がしてくるから不思議だ。
 たぶんそれは――
 パーシヴァルだったからなのだろう。
 彼はするっとクリスの懐に入り込み、今では欠かせない存在になりつつある。
 それでも――
「やっぱ近くないか? 」

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