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「走れ紀子」





 紀子は激怒した。必ず、琴子ちゃんには赤ちゃんを産んでもらわないといけぬと決意した。
 高校から一つ屋根の下で暮らしていたというのに、である。紀子はあわよくば琴子と直樹が高校生のうちに赤ちゃんの一人や二人ができても良かったくらいだと思っていたのだ。
 直樹は自分の息子である。琴子が好みであろうことは分かっていた。無論、勘のみではあるが。

 紀子は琴子と直樹が温泉旅行に行く前日、こっそりとふたりの寝室に入った。
 勿論、避妊具に穴を開けるためである。

 だが直樹の鞄にも、琴子の鞄にもそれらしき物は見当たらなかった。念の為ありとあらゆる引き出しを開けてみたが、チョコレート菓子にも似た目当ての箱は見つからなかった。

「おにいちゃんたらっ! どこに隠しているのかしらっ!」


 直樹ははなから避妊する気などなかったということを、紀子はまだ知らない。







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