トゥルルルル……トゥルルルル……トゥルルッ!
3回目の呼び出し音が不意に途切れ、電話がやっと繋がった。
「もしもし」
「俺だ」
「ああ…」
瞬間、会話の相手が誰かを理解し、回線の向こうで微かに笑う気配がする。
「ルキーノか、そろそろ掛かって来る頃だと思っていたんだ」
そうして再び聞こえた声は、さっきより何だか甘く耳に届いた。
いつも通り、艶のあるベルナルドの声。
それを聞き、俺もつい口角を持ち上げる。
「へえ、そいつはまた随分と熱烈な歓迎だな」
「言ってろよ。俺の声が恋しくて、掛けて来たのはそっちだろう?」
「ま、それは否定しねえさ」
そんな軽口を叩き合い、俺達は互いに、顔が見えない相手に向かって笑い掛ける。
それは言わば、定時連絡の度に繰り返されるお約束、みたいなもんだ。
俺と、同じCR:5の幹部でもある、4歳年上の恋人の…。
「っと、例の件は問題なく片付いたぜ。これで市警も暫くは大人しくなる筈だ」
「そうか、助かるよ」
「そっちの状況は?」
「相変わらず、さ。役員会の爺様どもの横槍が面倒でね」
「あまりストレスを溜め込むと、胃と前髪に良くないぜ」
「ご忠告どうも。そう思うなら、お前が肩代わりしてくれるかい?」
揶揄するような俺の言葉に、ベルナルドは少しだけ不機嫌そうにそう告げる。
だが、『面倒だ』と言いながら、俺と馬鹿な言葉を交わすヤツの声は柔らかい。
その響きに、俺は正直少し安堵を覚えていた。
幹部筆頭でもあるこいつは、俺にさえ何も言わずに、時々無茶なことをする。
自分から率先して、たった独りで貧乏くじを引きたがる。
俺は、それが密かに気が気じゃなかった。
だが…とりあえず今のところは、その心配もなさそうだ。
そう判断して、俺は会話を先へ進める。
「これから戻る。ホテルまでは、20分ちょっとだろうな」
「ああ、わかった。待ってるよ」
「戻ったら、例の請求、確認させてくれ」
「了解。用意しておく」
と、これで、業務連絡は完了だ。
後は……。
「ベルナルド」
「ん?」
「手土産は何がいい?酒か、煙草か、花束か。女と男以外だったら受け付けるぜ」
「お前……」
不意打ちみたいに告げた言葉に、受話器の向こうで、一瞬ベルナルドは絶句する。
だが、色恋慣れした恋人は、直ぐに頭を切り替えると、俺に向かってこんなことを囁いた。
「いや、必要ない。……それよりも、早く来てくれ。お前の顔が見たいんだ」
その響きは、告げられた内容よりもさらに甘い。
(ったく、こいつは…)
「了解。…待ってろよ、15分で行ってやる」
ベルナルドの誘い文句に、答えてそう宣言すると、俺はヤツの返事も待たずに素早く受話器を元へ戻す。
そしてそのまま、恋人の願いを叶えるべく、俺は傍に停めておいた車を目指して、足早に歩き出した。