『拗ね拗ねコタツムリ』
「あの〜、そろそろ時間が……」
「……そぉ?」
返事はあるが、声の主人の姿は見えない。
「だから、あの〜、明日の仕事にっ……」
「……大丈夫、俺のことなんて気にしないで……」
気にするなと言う割には、気にしないわけにはいかないオーラを発しまくっているのは何故か。
そして、今この場で、気にするなと言われても、気にしないわけにはいかない。
「いえ、あのっ!気にするなと言われましてもですね!?そんな訳には!」
「……そんな訳でも、どんな訳でも、気にしないでくれれば良いよ……」
「いや!でもですね!あの、ここは私の部屋ですので……敦賀さんはちゃんとご自宅に帰って休まれた方が……」
「だから、とっとと帰れと?」
「いえ、帰れなんて、そんな……」
「これは俺が頼んだのに…………」
「そ、そうですね……それは確かに敦賀さんのものですっ」
「なのに、邪魔だなんて…………」
「以前の部屋よりは広いですけど、8畳のワンルームにこの特大サイズはきついです!それに豪華絢爛すぎて、庶民の私の部屋ではどう見ても浮いてます!これはやはり敦賀さんの部屋に……」
「……俺の部屋に庶民的なこたつは似合わないと言ったのは君だろう?」
「いや、確かに言いましたけど、これだけ無駄に豪華絢爛なデザインにされたんですから、敦賀さんやあの部屋のインテリアには合わなくとも、うちに置くよりはマシなんじゃないかと!それにとにかく、これ!大きすぎです!」
「サイズは仕方がないよ。普通サイズのこたつだと、足を伸ばせないし、寝転げないんだから。君が言ったんじゃないか、貴方には普通サイズだと小さすぎておかしいって!」
「だからって、特注で作らせた上で私の家に送りつけるなんて!どんな嫌がらせですか!」
「……嫌がらせじゃないし……ಠ_ಠ」
「もう!早くそれ持って帰ってください!」
「こんなサイズ、俺の車には乗らないし……」
「じゃあ、後で送りますので、敦賀さんだけ帰ってください!」
「酷い……」
「酷くないです!」
「だって君が言ったんだよ?この季節、こたつに全身埋もれて、コタツムリになったら幸せな気持ちになるって!君は俺が幸せになっちゃいけないって言うの?出て行けって?」
その大きな身体を巨大サイズの特注豪華こたつと一体化させた男は、漸く見せた頭部をイヤイヤと振ったあと、またコタツぶとんの中に戻っていった。
どうやら、自宅に帰るつもりは全くないらしい。
「……ここで寝るし、大丈夫。ちゃんと着替えもあるから」
「コタツで寝たら風邪を引きますし、血栓などの危険もあります!うちには余分な布団もありませんし、私のベッドは小さいのでお貸しできません!とっとと帰ってください!」
ついに本気でキレたキョーコだったが、新種の豪華絢爛コタツムリからの返事はなかったと言う。
fin
コタツムシ(炬燵虫)から、コタツムリ(カタツムリに見える炬燵虫)に変更しました。
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