護衛対象の牧野さま、本日も何事も無くご自宅に戻られました。
不肖 甲斐山 亨、1日の中で一番 ほっ♪とする瞬間です。
牧野さまが玄関を開け、部屋の電気を付けた処で一安心。お住まいの周りをぐるっと一周して異常が無いか確認して、私も家路に着きます。
再度玄関を見上げて、類さまに報告の為スマホを取り出した処で……、
「きゃーーーーっ!!!」
「何でっ?何でこんな所に居るのよっ!!」
はっ!!!!如何なさいましたっ!
牧野さまっ!!!!
咄嗟に『事件発生、侵入者あり』とスマホに打ち込み送信。
「いっやぁぁーーーーー!!」
牧野さまの悲鳴を聞きながら、階段を駆け上がり呼び鈴を連打。
ピンポン、ピンポン、ピポピポ、
ピピピピピピンポポーーーン!!!
「牧野さま、開けて下さいっ!」
「如何なさいましたかっ!牧野さまっ!」
ドンドン、ドンドンドンッ!
玄関扉を蹴破ってしまおうかっ!
すると、解錠の音。……あれ?
侵入者自ら解錠ですか?思わず受け身の構え。
チェーンをそのままに、そろっと顔を覗かせたのは牧野さまで、少し涙目でしたが逆に私の訪問に驚いたご様子。
「あ、甲斐山さん」
「ど、ど、どうなさいましたかっ?」
「あ…のぉ……、ちょっと待って下さいね」
チェーンを外す音の後、扉を開けて牧野さまが手にしているモノに唖然。
「…何か…お風呂に飛び込んじゃったみたいで……」
「…………はぁ……」
牧野さまがお持ちの洗面器の中には、
水深五センチ程のお湯の中で小さなソレがちゃぽちゃぽもがいているではありませんか。
まさかっ!掬い上げたのですかっ!
「……………………………」
「どうしましょう、これ」
「………コウモリ……です…よ…ね?」
「みたいです…、可哀想に濡れちゃって、今夜は氷点下って云ってたし、このまま放り出したら……凍死…ですよね…」
「…はぁ……まぁ……ですねぇ」
「乾かしてあげないと……」
「あっ、ドライヤーとかで……」
「んー、それは如何なものかと…」
玄関先の床の上、二人で洗面器の中を覗き込み黙り込む。
***
一方『事件発生、侵入者あり』の報告を受けた 類。
顔色を変えて花沢邸を飛び出した。
─牧野っ、何があったのっ!!牧野っ!
甲斐山のスマホに掛けても繋がらない、牧野のスマホも繋がらない。
信号無視はスレスレ、速度違反も当然。
アクセルベタ踏みで、つくしの自宅を目指した。
─牧野っ、牧野っ!牧野っっ!!!
……………………つづく?