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夢の国
écrit par Riorio










翌日……
 
三人は道明寺の黒塗りの車でネズミーランドへ向かった。
車内では、大きなアクビをする類の姿がある。
 
「このまま車の中で寝ていても良いぞ。」
 
偉そうに告げる楓維に、類はカチンとくる。
誰のせいで寝られなかったと思ってるんだよ!と…
 
つくしはその理由を知っている。
起きた時、布団の隅で小さく丸まって寝ている類と、大の字で真横になって寝ている楓維。
それを見れば楓維の寝相の悪さが良く分かったし、類がほとんど寝られなかった事も分かる。
 
「いや、絶対に一緒に行く。 それより中は広いよ? 歩ける?」
「当たり前だろ! いくらでも歩けるよ!」
「そっ。 なら良かった。 昨日みたいに背負うのって大変だからさ。」
 
類は口角を上げながら楓維に告げる。
それにカチンとくる楓維。
 
「ふんっ。 体力がないんだな。 それぐらいで大変って言うなんてさ。」
 
楓維の生意気な言葉使いはいただけないが、いつもなら意にも留めない類が珍しく反論している。
しかもなんだかんだで楓維の事を心配しているようだ。
その姿に、歳月の流れを思う。
昔は他人に興味が無いと言っていたのに……
 
 
 
ネズミーランドに到着すると、チケット売り場へ向かう。
そこは長い列。
 
「もしかして……これに並ぶの?」
「そうだよ。」
 
てっきり貸し切りだと思っていた楓維。
あまりの列の長さに既に辟易している。
 
「今日は帰ろ? 明日貸し切りにしてあげるからさ。 その方が、ゆっくり遊べるだろ?」
「駄目! こういう施設は皆で遊ぶところなの。 だから貸し切りは駄目だよ?」
 
つくしは、やんわりと楓維を諭す。
そして列の一番最後尾に並んだ。
その間、類は割引券を取り出す。
 
「それ、なんだ?」
「スポンサー割引券。 これがあるとパスポート代が割引になるんだ。」
「ケチだな。」
 
楓維の言葉に、すぐさまつくしが諭す。
 
「それ違うよ? こういうのは、お得っていうの。 あっ、順番がきたよ。」
 
類は割引券を提示し、三人分のパスポートを割引で買う。
そしてやっと入園した。
 
「人が多いし手を繋ご?」
「そうだね。」
「分かった。」
 
類と楓維は、共につくしの左右の手を握る。
つまりつくしが真ん中だ。
それにはつくしも苦笑いだ。
 
「これだと意味がないじゃない。 類は楓維君のもう片方の手を繋いで?」
「えっ。」
「万が一、楓維君がこけたり人にぶつかったりしたらダメでしょ?」
 
類は渋々つくしの手を外すと、楓維の手を握る。
確かに怪我をさせたら大変だからだ。
 
一方の楓維も、こういう風に手を握られるのは滅多にない。
父親は仕事が忙しく家族で出かけることはほとんどない。
母親の椿が今回のように仕事の合間に観光に連れて行ってくれることはあるが、時間のロスを避ける為か施設のほとんどが貸し切り。
それに四方八方を黒服のボディガードに囲まれ視界が狭まり見たい場所が見れない。
自分の行きたい場所ではなく、椿や大人が決めたルートを歩くのみ。
だが今は自分の目でアレコレ見て、行きたい場所へ行ける。
楓維は、二人の手を引っ張るようにして歩く。
 
「ほらっ。 早く行こう? どんな乗り物があるの? アメリカと違うかな?」
「どうだろ? アメリカのネズミーランドには行ったことが無いからなぁ。」
「あっ、あれは何?」
「あれは……。」
 
入園するまでは、列が長いだのケチだのと文句を言っていたが、入った途端テンションが上がっている楓維。
その姿を見て、『すっげぇ。夢の国』と思う類。
つくしと手を繋ぐことは出来なかったが、こうして隣を見ればそこに愛しい人の笑顔があり、小さな手は庇護欲も沸く。
類は引っ張られながらも笑顔になる。
 
アトラクションももちろん長蛇の列。
それを見てゲンナリする楓維に、つくしが話しかける。
 
「あのね。 これだけの人がウキウキしながら待ってる乗り物ってどんなんだろうね? きっとすごく楽しいよ。」
「そうかなぁ。」
 
楓維は周りを見る。
皆文句も言わずに並んでいるが、どの人も笑顔だ。
確かにどんなアトラクションなのかウキウキと気持ちが高まる。
40分後やっと乗り物に乗ったのだが、それは二人ずつ前後に並ぶ乗り物。
 
「僕がつくしと乗る! 類は後ろね!」
「はいはい。」
 
類は我慢するしかない。
駄々を捏ねる時間は無いし、また牧野と来れば済む事!
それに近い将来の予行練習と考えれば、、と自分に言い聞かせる。
 
数種のアトラクションを楽しみ、パレードでハシャギ、首からぶら下げるポップコーンを食べながら歩く。
疲れたら近くの縁石や花壇の淵に座る。
楓維は何もかも初めての事でテンションが高い。
 
「次はあそこに行きたい。」
 
楓維は、指を差しつくしに告げる。
そこに類がジュースを買って戻ってきた。
 
「はい。」
 
手には二つのジュース。
その一つを楓維に渡すと、もう一つはつくしに渡した。
 
「類は? 喉乾かないの?」
「俺? 俺は……」
 
すると、つくしがサッと差し出す。
 
「はいっ。 どうぞ。」
「ん。 ありがと。」
 
ごくごく自然な行動。
それを受け取ると、類はサッと飲み再びつくしに返す。
それをつくしが飲んでいる。
 
楓維は、それを見て自分のジュースもつくしに渡す。
 
「どうぞ。」
「あっ、ありがと。」
 
つくしは楓維のジュースを受け取ると、少し口をつける。
それを見て、楓維は勝ち誇ったように類を見る。
だがすぐに視線は類の後ろへ移った。
何かのキャラクターがいるようだ。
 
「あっ!」
 
ダッシュで飛び出す楓維。
 
「元気だな。」
「だね。 でも凄く楽しそう。 やっと子供らしい顔になったね。」
「そうだな。 少しは気分転換が出来ていると良いな。」
「うん。」
 
類はつくしからジュースを一つ受け取ると、立ち上がる。
そしてサッとつくしの手を握り、楓維の方へ駆けだした。
 
ここは日常を忘れさせてくれる夢の国。
ここに居る間だけは休戦にしよう。
少なくとも未来の予行練習が出来ただけ、楓維には感謝かな?
 
 
 





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