*彼にとっての運命は……
(注:オメガバースネタになります)


「お前この間の研究発表どうだった」

「はは、そんなの当然出来て当たり前だろ」

「まあそうだけどな」



登校時、歩いているとそんな声が聞こえてきた。三弥の前を姿勢も正しい生徒が颯爽と歩きながらそんな話をしている。丁度一人が横を向いた時に胸のバッチが目に入った。多分そうだろうなと思った通り、αの証を付けている。三弥はそっとため息を吐いた。

何て堂々としているのだろう。羨ましいなと、しみじみ思う。



この世には男女以外にも三つの性がある。α、β、Ωだ。βは全体人口の八割を占めており、いわゆる一般的な性とでも言うのだろうか。大抵は男女で結婚することが多いのもβだ。残りの二割がαとΩで、αはリーダー格の人種とでも言うのだろうか。大抵のαは容姿やあらゆる能力が秀でており、社会に出ると大抵地位の高い職業につき、魅力的なリーダーとして社会集団を統括する。またαは男女問わずΩを妊娠させることが出来る。そして妊娠出来るΩは同じく男女問わず妊娠するため、少子化に悩まされているこの世界では「命を生み出す宝」と重宝されている。ただ、ヒートという発情期があるため、社会活動には制限が出てしまう。ヒート期のΩは強烈なフェロモンを発し、繁殖行為しか出来なくなるからだ。そのためΩという存在を誰もがありがたがるわりに、就業や出世に響くこともあり、Ω本人はΩだと隠して働く者も多いようだ。抑制剤のお陰で隠せている者も一応は多い。そしてそのお陰で少子化問題はなくならない。



なんて、これらの事情は基本的に学生には関係ない。学生の本分は勉強だから、というよりは彼らの問題が子作りではなく、いかに好きな人とどうなるかといった恋愛事情や、ひたすらヤりたいといった性的事情に尽きるからだ。なので三弥の学校でもαやβ、Ωといった性は基本的にはどうでもいいと思っている者が多い。ただし、αには将来の出世のためがんばる生徒が多いかもしれないし、αやβの生徒は機会があればヒートしたΩの生徒と性行為をやってみたいといった憧れくらいは持っているかもしれない。そしてβやΩはαの才能に憧れているかもしれないし、αやΩは特に身体的枷のないβが羨ましいと思うこともあるかもしれない。また、αとΩには番という制度がある。運命を感じた同士、αが性行中などにΩのうなじを噛むことで成立するのだが、そういったことのないβの生徒たちにとってはそれが憧れだったりするかもしれない。

だが、今の三弥が羨ましがっているのは、そういったこととも全く関係ない。昇降口の下駄箱のところでそんな三弥を見つけた廉治は呆れたように口元を歪めながらもひっそりおかしげに笑った。

こいつ、また同じようなことでため息吐いてんだろな、などと思う。



そう、三弥の悩みであり憧れでもある内容とは、いかにもαらしい堂々としたαが羨ましくてたまらない劣等感にまみれたαである自分、というのだろうか。日々何かに対して劣等感を抱いている様子が窺え、申し訳ないがあまりに明後日過ぎる発想や考えについ廉治は笑ってしまうのだ。



確かに、と密かに思う。

三弥はαらしくないと思うことも一応、廉治としてはあった。

セックスの時は特に思うことだが、本人はいたって真面目なのだろうが、どうにもそそられるというのだろうか。



自信ねぇネガティブなとこ置いといたとしても、なんしかエロいんだよな。反応とかいちいち。



なので最初はもしかしてαだと嘘を吐いているΩなのだろうかなどと思ったこともあった。だが間違いなくαだという。ついでに陸斗には「お前の欲まみれの脳のせいだろ」と呆れられた。どのみち実際にセックスをしているので間違いないと廉治も分かっている。何故ならΩにつきものの、勝手に濡れる、なんて便利な機能も、妊娠出来る機能も、三弥にはついていないのをこれでもかというほど味わいつつ知っているからだ。

そうでなくとも三弥の成績や、斜め上な性格を差し引いた日々の言動、そして容姿を見ていたら廉治を含め、誰もが三弥はαだと断定出来るだろう。本人だけなのだ。αらしくないと思っているのは。



「おはよ、ミヤ」



まだじわりと込み上げる笑いを何とか堪えつつ廉治が後ろから三弥の頭をくしゃりと撫でると、三弥は少し嬉しそうな顔をして見上げてきた。



「おはよう、斉藤」



あー可愛い。クソ可愛い。俺からしたらミヤがαだろうがβだろうがΩだろうが何だって気にもならねーけど、もしミヤがΩだったら番になれんだよなー。でも子どもいらねーな……。絶対俺とその子どもとでミヤの取り合いになんの目に見えてんもんなー。



「……斉藤?」

「クソ」

「え、俺、何かした……?」

「ぁあっ? んな訳ねーだろ。何もしてねーしミヤはそのままでいーんだよ!」

「え、えっと? あの、……うん、ありがとう……」



思わず気持ちが駄々漏れになりそうで慌てて言えば、ぽかんとした後に三弥がさらに嬉しそうに笑った。








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  • : リニル&エル大好きです!リニルが報われてほしいなぁ。

    大好きと言って頂いてありがとうございます! 久しぶりのCPだけに尚更嬉しいです。 リニルの全力愛が基本微妙に空回りしていますが、これでもじわじわとわずかながら前進しているかと。わずかながら……。 今後も楽しんでいただければ幸いです。 コメント、ありがとうございました!

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