【窓の向こう側】
それまでただの天敵であった相手が、いつも窓の外を眺めていることに気づいたのは、中等部に入ってからのこと。初めて同じクラスになった佐藤聖は、基本的にいつも独りで。そうして授業中も外ばかりを見ていた。
(本当、よく飽きないわよね)
毎日毎日、たいして代わり映えがするとも思えない景色の何がそれほど面白いのだろうと、最初は訝しく思っていたものだけれど。
ある時、そうではないのだと気がついた。
(外を見ているわけではない?)
そう、彼女の視線はどこも捉えてはいなかった。
普段の様子からしても、佐藤聖は江利子ばかりでなく、周囲の人間との接触をあまり好まない。その意味するところはつまり……。
(人間嫌い、なのかしら)
だとしたら彼女が窓の向こうに見ているものは。
(人のいない楽園、とか?)
そう考えて、考えた自分がらしくないと思った。
別に彼女が何を考えていようと関係ないはずなのに、どうしてこんなにも気にかけた上、妙に感傷的な想像をしてしまうのだろう。
(やめた)
つまらないことを考えるのはやめよう、そう決めはしたものの。この時浮かんだ考えは、なぜかいつまでも江利子の心の奥深くに残っていた。
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