【ビニール傘】




 下足箱で靴を履き替えながら外の様子を窺うと、やはり小雨がぱらついているようだ。
(傘を持って来てよかった)
 スクールバッグの中から折り畳み傘を取り出し、外へ出てそれを広げる。すると、少し前を同じクラスの佐藤聖が歩いているのが見えた。
 なぜ彼女だと判ったのかといえば、透明なビニール傘を挿していたから。その色素の薄い髪の後姿は見間違えようがない。
 声をかけようか、と考えて思いとどまる。
(きっと、嫌がるわね)
 もちろん、意外に律儀な彼女は話しかければ、それなりに会話してくれると知ってはいたけれど。
 それでも、自分が煙たがられていることは解っていたから、あえてそれを助長するような真似はすまいと思った。
(でも、気になるのよね)
 本人が気づいているかどうかは知らないが、佐藤聖という少女はひどくひと目を惹く。
 蓉子は最初、自分がお節介だから彼女が気にかかるのかと思っていたけれど、そうではないらしい。よくよく周りを見てみれば、クラスメイトや廊下ですれ違う生徒達も、彼女に目が行くようだった。
 それは華やかな容姿のせいばかりではなく、彼女の持つ独特の……どこか危うさを秘めた雰囲気のためだということに、蓉子が気づくのはもう少し後のことになる。




お題配布元 モモジルシ/桃子様

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