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パラレル時代劇『お江戸でござる!』派生作品(スピンオフ)『柳緑花紅』




※こちらのお話は、河杜花さまに無謀にもお渡しした「お江戸でござる!」の派生作品となります。
 宜しければ、そちらをお読み頂いたうえでご覧下さいませ…







時は江戸。
徳川の狸爺が東の国に幕府を開いて200と十数年。
浦賀の沖にはペルリなる異人が現れ、京の都よりは天子様の御妹君が江戸の家茂公のもとに降嫁され、江戸の町ははすったもんだの大騒ぎ。
やれ攘夷だ、やれ開国だのと、血気盛んな若者も大勢集まる、花のお江戸。


時刻は既に卯の刻(午前6時)
江戸、新吉原で一、二を争う遊郭にも、朝が訪れる……








ごろりと横になり眠る総二郎の顔を眺めていると、襖の向こうで人の気配がする。
それを察した杜花は、すっと音も立てず立ち上がった。
予定時刻を告げる廓の遣手(※)に、懐から金子を取り出すと手渡す。
遣手の婆も心得たように頷き、黙って姿を消す。
そっと襖を閉め振り返るが、総二郎が起きる気配はない。
ほっと息をつくと、再び総二郎の側に座る。




端正な顔立ちで眠る総二郎は、杜花にとって単なる『馴染み』ではない。




杜花が初めて総二郎に会ったのは、禿から振袖新造になる頃。
姉さん花魁の席で呼ばれた時のこと。


「へぇ…花ちゃんっていうんだ。可愛いね」


まだ『杜花』という名前を貰う前、本名を呼び艶やかに笑う総二郎の姿に、思わず手にした杯を落としそうになってしまった程。
姉さん花魁の馴染みである総二郎は、その後も時折廓を訪れた。
武家の次男坊、ということは耳にした。
やがて杜花も振袖新造になり、忙しい姉さん花魁の名代に上がることもあった。
話題が豊富で社交的な総二郎の相手は、恋心を除いても楽しかった。


だが、ある日を境に、総二郎の足は止まる。


「総さんは、品川宿の問屋の婿殿になったんだよ」
そんな噂が流れてきた。
「所詮、廓の客と遊女。仕方のないこと」
姉さん花魁は薄く笑った。




そんな中、杜花も店に立つことが決まる。
我儘を承知で、杜花は店の主人に頭を下げた。


『水揚げは、牧野屋の総さんにお願いします。花代は、私の債務で構わない』
と。


店の主人と、年季明けで廓を出る姉さん花魁の口利きで、杜花の願いは聞き届けられた。




「杜花は物好きだな…」


初めての夜。行燈の、薄明かりの下で総二郎が笑い、そっと杜花の身体を抱き寄せる。
後にも先にも、肌を重ねたのは、そのとき一度きり。
永遠に続けばいいと願ったひととき。総二郎は唯唯、優しかった。






あれから幾年。
総二郎は時折、ふらっと杜花の元を訪れる。
派手に廓で遊び、艶やかな笑顔と会話で皆を楽しませる。
杜花にとっては、上客中の上客。でも、それだけではない。


『廓の花魁は、身体を売っても心は売ってはいけないよ』
昔、姉さん花魁に言われた言葉。


判っている。
だから、総二郎には身体は売らぬ。心も売らぬ。
代わりに自分の心を預けよう。
そうすれば、他に売る心がなくなるのだから。


眠る総二郎の頬に、そっと接吻を落とす。
総二郎のこの寝顔を見ることが出来るのは、牧野屋の若女将の他には自分ただ一人。
それだけで充分。これ以上、望むことなどすまい。


江戸の空が明るく白み、鳥の鳴き声が小夜啼鳥(ナイチンゲール)から雲雀(ヒバリ)に変わる。
刹那、杜花の眼に、哀しみの色が浮かぶ。
が、それも一瞬のこと。
それを振り払うようにふっと笑みを浮かべ、総二郎を揺り起こす。




「総さん…。総さん…。起きておくれなんし…。…朝でありんすよ…」






-了-




※遣手(やりて)
遊女屋全体の遊女を管理・教育し、客や当主、遊女との間の仲介役。
年季を勤め上げた遊女や、番頭新造のなかから優秀な者が選ばれた。




…あれ?おかしいなぁ…?
ほっこりのお話の筈だったのに
何でこんな風になったんだ…?
花さま、
とてもお礼にはなっておりませんが
貰っておくれなんし~<(_ _)>