桜


 子供の身体を二つも三つ束ねるよりも太くずっしりとした幹は、先ほどから吹く風がまるで羽衣で肌を撫でられたのだよとでも言うようにくすりとも動きはしない。

 人の子など比べるに足らぬほどに太き幹も、天へと伸ばんとする枝なれば徐々に細くなりゆく。頂きともなれば娘子(むすめご)の腕(かいわ)のようにか細い。撓(たわわ)なる枝に風は甚(はなは)だしく、翻弄される枝々が身を揺らして奏でる音は不安を掻きたてる。

 子供の手に包まれてもなお小さき薄紅色の花々は、幾枝より咲き出で、誇る様は人の心を惹きつけてやまない。枝々と共に揺れる花々は、風に乗って壁を越え外の世界へと旅立つもの。地上に舞い降りその地を彩るもの。池に吸い寄せられ身を流されていくもの。風に耐えなおも桜に寄り添うもの。幾重にも分かれた枝枝のようにその末路はいくつもある。

 それでも、その生き様と行く末は同じもの。






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