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拍手お礼SS:万能調味料。



 料理は化学実験と同じだ、と誰かが言っていた。


 書いてある通りに作れば失敗はしない。
 先人が長い年月をかけて研究に研究を重ねた物を、また別の専門家が今までの経験を元にアレンジを加えたり洗練されたものにしたりしてどんどんと洗練させたもの。それが、レシピ本だ。 
 何グラム入れるだとか個数だとかサイズだとか全部書いてあるし、本によっては切り方や火加減や料理用語の解説まで書いてあるのだ。これで出来ないわけがない。


 と、私は思っていた。

 だって燈馬君だよ?
 変なアレンジとかしないで、ちゃんと作りそうじゃない?



「…………うん」

 非常に重いため息を着きながら白い小麦粉で出来た物体を咀嚼する。
 野菜とかを切るのは非常に綺麗だ。手元が慣れていないせいで危なっかしくて、見ていてひやひやするけれど。
 味付けも私なんかは目分量で結構ざばっとやっちゃうところを、燈馬君はきちんとすりきりで量ったりグラム単位でしっかり合わせたり全く問題が無い、というか完璧。
 多分、燈馬君はあいまいな表現に対しての対処の加減が判らない。味付け関係の少々とかそういうのは微々たる量だから問題にならない。


 問題は、火加減に関してだ。
 ……なんでそうめん茹でるだけなのに焦がすんだろ。
 茹で方に火加減書いてないっけ?
 というか茹だるまでに水気がなくなるってどういうことなの?


 そうめんなんて茹でるだけだから!と言った手前、食べない訳にもいかなくて。白くて噛みごたえのある板をもにゅもにゅ食べながら問題点を探る。
 麺を入れた瞬間から三分なのか、鍋に全ての麺が沈んでから三分なのか、オロオロしてるうちに時間が過ぎて、というあたりか。
 火加減も、強火、中火、弱火、大体どれくらいかなんて目分量で量らなければいけない。コンロのつまみを単純に分割して強弱とか考えてるんなら恐ろしい。弱はそれでいいかもだけど最強火力と強火は厳密に言うと違うし、だから中火だってつまみの真ん中で『中』ってわけじゃない。


「……あの」
 もぐもぐしながら無言の私に、燈馬君はおずおずと声をかけてきた。。
「美味しくないですから無理に食べなくていいじゃないですか……」
 見ると、燈馬君の皿は、よそってきたままの状態で減っていない。
 確かに麺がくっついて固まってしまっているし、焦げ風味も見事に吸い取ってしまっている。お世辞にだって美味しくはない。

 でも、私が無理矢理やらせたにしろ、あの燈馬君が作ってくれたのだ。
 それを、残すなんて出来っこないじゃん。 
「美味しいよ」
 心が、美味しいと感じるんだからいいんだよ。
 料理の隠し味はなんちゃら、とか言うじゃない。


 またひとかたまりをめんつゆに潜らせる。
 たとえ啜れない麺類だっていいのだ。こういう食べ物だと思えば。
 相変わらず燈馬君は納得しない顔をしているけれど、気にしない。
「ホラホラ制作責任者、手が止まってるよ。食べよ」
「うう……、やっぱり水原さんの作った物が食べたいです」
 重いながらも燈馬君はなんとか手を動かし、板状そうめんを口に運ぶ。
 苦々しい表情で食べるその仕草を、私は笑いながら眺める。
「じゃあさ、今度は二人で作ろうよ。そしたら絶対もっと美味しいからさ」
「今日ので懲りませんでした?」
「燈馬君は経験不足なだけだよ。つきっきりでコーチしてやるからさ」
 心底楽しく私が言うと、燈馬君はげっそりとまた下を向く。

 だってこんだけ下手でも私が美味しく感じるってことは、二人で作ったら二人分の愛情スパイスがかかるんでしょ? 美味しくないわけないじゃんか。
 でも、それは言ってやらない。完成品を食べて思い知ればいい。
 
 にまにま笑っているだろう私に、燈馬君は怪訝そうな視線を投げながらそうめんを食べる。
 私は私で、次は何を作らせようかといろいろ算段を練りながらそうめんを食べる。



 たまにはこういう昼食だって、悪くないんじゃない?
 






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