「入江く~~ん。あたし着替え持ってくの忘れちゃって……バスタオル巻いて行くから向こうの方を見てて~~」

案の定、琴子が浴室から顔だけだして眉尻を下げたいつもの表情で、甘えたように懇願する。
手短に、とせっついたのにかなり長湯だったな。のぼせてないか心配になったくらいだ。

「バスタオル巻いてるなら大丈夫だろ?」

琴子のバスタオル姿なんて同居時代から見慣れてるし。
別に夫婦なんだから、例えすっぽんぽんで飛び出して来ても構わないと思うのだが。
ま、ゴキブリでも飛んで来ない限り有り得ないシチュエーションだが。

「えー! もしタオルが落ちちゃったら恥ずかしいじゃない」

そこは琴子なので顔を真っ赤にして反論する。顔が赤いのは、風呂上がりで上気しているせいもあるだろう。
髪をタオルで巻いて、濡れた後れ毛がはらりと落ちている様が妙に色っぽい。
かつてはそんな色気のないやつを襲うかと、冷たく言い放ったものだが、男である以上全く何も感じなかったというのは有り得ないというものだ。ただの強がりと無防備な格好でうろうろするなという(裕樹だって親父だっているのに!)苛立ちがあんな言葉を言わせたのだろう、と今なら自己分析できる。

リビングから移動する気のなさそうなおれに、琴子は仕方なくバスタオルをきっちり巻き付け手でガードしながら、こそこそとリビングを横切って、寝室へ向かっていった。
寝室に置いてあるプラスチックの衣装ケースにとりあえず琴子の下着などが入っている。ダンボールに入れっぱなしというわけにはいかないので、ホームセンターで購入したものだ。
琴子はがさごそと漁りはじめた。

「うーん………どれにしようかな……一応……勝負下着的なものの方がいいのかな~~? ひ、久しぶりだものねっ/////
お義母さんいろんなの詰め込んでくれたから沢山あるんだよね……全然着けてないけど……」

と、ぶつぶつと呟きながら透け透けのベビードールを眺めていた。しかも挑発的なショッキングピンクで黒のレースの縁取りがあったりする。
琴子のイメージではないが、案外似合うかもしれない。

「ふーん、それ着るの?」

おれが琴子の顔の横からぬっと顔を出すと、

「ひゃああ~~~」

琴子が飛び上がらんばかりに驚いて後ずさり、手からベビードールを放り出した。
ついでにバスタオルもずれ落ちそうになる。

「こ、こ、これは~~お義母さんが入れてくれたみたいでぇ……」

「小悪魔ちっく……というか、コスプレな感じというか」

「 き、着ないよ~~~こんなの、恥ずかしすぎるぅ/////」

顔を沸騰させてぶんぶんと首を振る。

「うん。今夜は着なくていい。まだ数日あるからお楽しみはその時に」

あのほぼレースのみで構成された黒いチュニック風のやつとか。深紅のホルダーネックにオレンジのフロントスリット。どれも煽情的でそそられる。そして、意味不明なシースルーカッパまで入ってたな……オフクロ、おれの好みを分かっているのか、ふざけているのか………。

「ふぇ~~?」

琴子の身体をふわりと抱えあげると、頓狂な声をあげた。
今は脱がす時間すら惜しい。ベビードールコレクションは5日の間に堪能できるだろう。

そしておれはベッドの上に琴子を転がす。

「いやーーんっっ」

転がされた弾みでバスタオルがぱらりとはずれ、琴子の小振りな胸が露になる。
もう一度胸を覆おうとした琴子の手を押さえて、おれはそのままばっとバスタオルを剥ぎ取り、ベッドの外に放り投げた。

無防備な生まれたままの姿をおれに向けて晒すこととなった琴子は、両手で胸を隠しながら身体をひねってうつ伏せになった。
今さら何を恥ずかしがるのだろう。
結婚して4年。
既に数えきれないくらい身体を重ねてきて、その白い肌の上のほくろの数さえ熟知しているというのに。

おれもさっさと部屋着替わりのTシャツを脱ぎ捨てた。

「なんだよ? いきなりバッグがいいのか?」

べつにそれでも全然いいんだが。
うつ伏せになって、しなやかな背中とそこに続く小さく可愛らしい双丘がぷりんとおれの方を向けていた。

「え? いや、そーゆーことでは ………」

否定の言葉を紡ごうと身を捩って振り向いたので、すぐさま覆い被さって唇を塞ぐ。柔らかな唇の感触とともに、互いの素肌が久しぶりに触れあって、それだけで身体が熱くなるのを感じた。

「………ん……」

長い長いキスをした。
いつもは優しく羽が触れるような啄むようなキスから始まるのに、今夜は初めから食らいつくようなキス。
息を継ぐ暇もなくおれの舌は琴子の歯列を割って、その咥内を侵食していく。

飢(かつ)えていた。
ずっと、ずっとお預けを食わされた犬のように。
いや確かにお預けさせられていたわけだが。

10分以上キスだけで琴子を翻弄したあとは、その首筋や、小さな胸の頂や、二の腕に丁寧に所有印を刻みつけていく。
その度にピクリと跳ねる華奢な肢体をベッドに押さえつけ、その可愛らしい胸を激しく揉みしだいた。

「ああん……入江くん……電気点けたまま……」

消して、という言葉を飲み込むようにもう一度深いキス。

「 今さら?」

ニヤリと笑うおれに、潤んだ瞳で見つめてくる妻の脚を大きく広げる。キスだけで十分濡れて水滴を滴らせているその淡い繁みの奥の蕾にキスを落とす。

「ああ……あっだめ……」

あまやかな声が狭い寝室に響きわたったーー。




病み上がりだから、とりあえず2戦くらいでセーブしておこうと最初は思っていたのだ。 
だが、一度抱いてしまうともう抑制が効かなかった。
ようやく、といっていいほど待たされたのだ。やっとおまえと繋がれるのに、この数週間総動員させた理性はとうに粉砕した。

琴子の熱い奥底に何度も潜り込みたい欲求を抑えきれなかった。そして琴子も柔軟に何度でもおれを受け入れる。

「もう、ダメ…………」

口ではそう言っても、身体は全然ダメじゃないだろ?
突く度に、おれを締め付け逃さないように離さないのはおまえの方だろう?


久しぶりに使用したスキンの箱が空になったところでやっと琴子を解放した。
終わりのほうは、声のあげすぎでもう喉ががらがらになっていたな。そして、最後にイッた時にはほとんど失神するようにそのまま眠ってしまったようだった。

おれも汗ばむ身体を急に冷やさないようエアコンの温度を少し上げてから、タオルケットを肩までかけて、琴子を腕に抱えこむ。

ぴったりとくっついた肌と肌。今が0ならあと一週間後には430キロの物理的な距離が生じる。
自分で選んだ道とはいえ、まさかその距離がこんなにも生活を空虚にさせるとは思ってもみなかった。
琴子のいない生活。
おそらく何ものにも煩わされることもなくただひたすら研修医として研鑽し技量を磨く日々になるだろう、くらいにしか思っていなかった。

これはもう、ある種の中毒だよな……

笑うしかない。
トラブルと騒々しさに振り回される日常。
それらのない生活がこんなに耐えがたいものとは。
琴子がやってきて冗談のように次から次へと事件が起きて、不安に苛まされたり、安堵したり怒ったり笑ったり。
こんなドタバタ劇のような日々が当たり前だったことをイヤという程思い出す。

刺激のある生活に慣れすぎたのだ。


もうすぐまた空虚な日々に戻る。
ーーいや、目の前の患者に立ち向かっていれば、私事の空しさを忘れることはできる。
それでもふとした瞬間に自分の中にあるぽっかりと空いた穴に気付いてしまう。

それを埋めることができるのは……


おれはおれの腕の中で規則正しい寝息をたてて眠る琴子の髪を弄びながら、その寝顔を飽きもせず眺め続けていた。


ーーもうすぐ夏休みが終わる。 



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