『看護科合格デートのその後は』







「な、なんか凄いとこだね……」

琴子が薄暗い土間のような細長い廊下を見回して、小声で呟く。

「ご宿泊で? 三階しか空いてないがいいかね。はい、料金は前金でね」

……他の階は満室なのか? 嘘だろ?

ホラー映画に出てくるような老婆がしわしわの手を差し出して、鍵を渡し、そしておれが財布から出した札を受け取った。

「……いいかい? 鍵は必ずかけるんだよ」

かけないとどうなる?
誰か覗きにでもくるというのか?

色々突っ込みたくなるがぐっととどまる。
そして、無理と思いつつ、クリーニングサービスはあるかと訊ねる。

「あるように見えるかね?」

「見えないですけど、服がびしょ濡れなので乾かしたいのですが」

「風呂場で洗って、エアコンの近くに干して置けばいい。一晩で乾くじゃろ」

……せめて脱水しないと生乾きだろうな……

まあ明日は休みだし、チェックアウトギリギリまで粘れば乾くだろう。

何処に三階への階段があるのかと思ったら、引き戸の奥に細い階段があった。薄暗く上の方が闇に包まれまるで異界への入り口のようだ。「な、なんか不気味ー」鳥目の琴子は俺の背中を掴んで上る。二人ならんで通れない細さだ。

部屋の中は、趣深い……といえば、よく言い過ぎだろう。古めかしくいかにも昭和な和室の部屋である。
なんだ? この金箔に葵の紋のついた内扉に塞がれた窓は。形は長方形に上部が半円という洋風住宅にあるようなラウンドトップウィンドウだが、思いっきり昭和な内装だ。
布団は畳の上に敷かれていた。一応ダブルのサイズらしきものが一組だけだ。
朱色の布地に覆われた鏡台が黄土色の土壁に妙に浮き立っていた。
その鏡を覗いたら妙なものでも映りこんでいそうだ……。


琴子は怖がるかと思ったら、意外と物珍しさが勝っているようで、あれこれ探索して回っていた。

「お札とかあったら怖いよね〜」と額の裏側とかチェックしている。
やめとけ、ホントにあったら洒落にならん。

「わー入江くん、見て見て、こんな形のお風呂って初めて〜〜」

確かに扇形の風呂なんてあまりみないな。
青地に幾何学的模様の描かれたタイル張りの壁。浴槽も昔の銭湯のようなモザイクタイルだ。これが出来た当時は相当モダンだったのかもしれない。今はタイルが所々剥がれ、古めかしさが際立っている。
しかし、この扇形、一人しか入れないくらいの狭さだ。

「……琴子、おまえ先に入れよ。風邪引くぞ」

連れ込みなんだから、二人でしっぽり入れるくらいのサイズは欲しいものだ、とやはり一番近いという理由で此処を選んだことを少々後悔する。

ーーそう、ここは。ラブホテルなんて洒落たものがない頃から存在した、古式ゆかしき日本のアンダーサイドとでもいうべき、いわゆる連れ込み宿というやつだ。
ファミリーーが行き交う井の頭公園の門のすぐ近くに、ずっと昔からそこにある、妖しげな建物。ジ◯リの世界よりずっと不思議の国への扉のような気配が強いと思うのは気のせいか。



「とにかく、早く風呂に入れよ。風邪引くぞ」

そういっておれは蛇口をひねり浴槽にお湯を溜める。

「えー入江くんだって、服、濡れてるよ」

「おれは今回はそんなに被害はない」

そもそも、今日は琴子の看護科転科試験の合格祝いと称して、琴子プロデュースのデートに付き合ったのだ。まあ、バレバレのあいつの計画通りになんてしてやらなかったが。
それでも最後はひとつだけ願いを叶えようと、夜の井の頭公園のボート乗り場に侵入し(………不法侵入……犯罪行為だな…)勝手にボートにタダ乗りし、(一応料金を置いておいたが……)夜桜と琴子の唇を堪能したのだ。

そしてムードが盛りあがったところでーー2年前の悪夢再び。
ボートを降りようとした時に、バランスを崩した琴子がポシェットを池に落としてしまい、それを拾おうとして結局池に落ちたのだ。どれだけここの池に落ちるのが好きなんだ。
無論すぐに拾い上げたが、ずぶ濡れだし、おれもそれなりに濡れた。
三月の夜はまだ肌寒く、さすがに濡れたままではいられないので、とにかく一番近いホテルに、とここに飛び込んだのだ。

昼間見たときから怪しげだったが。
瓦の乗った門塀は武家屋敷風だが、モルタルに緑で塗装された感じが妙に陳腐だった。
旅荘と書いた看板と休憩いくら宿泊いくらと記された案内板でようやくここがそういう処だとわかる。

他にもホテルはあったろうが、濡れ鼠の琴子をウロウロさせたくなかったし、タクシーに乗るのも気が引けたので、ここに入ったが、しかし、昭和の猟奇事件の舞台にでもなっていそうな雰囲気にさすがに早まったか、という気にもなった。
そういえば、一年くらい前にこの長閑な公園で気味の悪い事件もあったよな……
だが、もう遅い。
入ってしまった以上、この状況を最大限に楽しもう。
ーーと、琴子並みのポジティブシンキングで思考を切り替え、ずぶ濡れの琴子の服を奪い去り、溜まった湯槽にいれてやる。

「はぁ〜〜あったかい。生き返る……」

さすがに寒くて震えていたもんな。
おれは洗い場でお湯を熱めにしてシャワーを浴びる。
狭い浴槽で体操座りをしていた琴子が顔を真っ赤にしてそっぽを向く。

「……なにを今さら恥ずかしがってんの。見慣れてるだろ?」

意地悪くにやりと笑う。

「見慣れてなんか……」

確かに一緒に風呂に入ることは滅多にないからな。
お陰で、琴子が目をそらしたくなるほど、おれの分身がそそりたっていた。
青ざめていた琴子の唇を赤く濡らしただけで、おれの先端も十分に濡れていた。

待ってろ。
極上の泉のなかに連れていってやるから。おれはわざとらしく琴子の目の前に、どんどん元気になっていく奴を突きだしてやる。
ぎゃーぎゃー騒ぐ琴子の反応を見るのは実に面白いがーーこら、湯船に潜るな!
髪、乾かすの面倒だろ!

おれはそのままシャワーで済ませ、(ついでに服の洗濯も完了)結局琴子を洗ってやるからと石鹸まみれにした。
浴槽の縁に腰掛け、その上に泡だらけの琴子を座らせ、後ろから攻める。
滑りやすいのが難点だが、左手は小振りな胸をやわやわと揉みしだき、右手は足の間をさ迷いつつ、可愛い蕾を弄ぶ。

「ああ……ん」

琴子の声が狭い浴室に反響する。
腰掛けたままだと安定が悪いので、立ち上がり琴子を壁に押し付けて立ったままで再び貫いた。
そして、その体勢のまま何度も激しく抜き差しをし、何度も貫いた。

「や……ダメっ」

「ダメじゃないだろ?」
耳元で囁くと琴子はぴくりと震え、きゅっとおれを締め付ける。
やば……
おれは慌てて琴子の中から出て可愛い双丘に向けて白い飛沫を吐き出した。





すでによろよろになった琴子の身体を丁寧に拭いてやり、バスタオルでくるんで部屋に戻り、布団の上に下ろす。
たまには布団もいいよな。とはいえ、洗濯した服を衣紋掛け(というのに相応しい木製ハンガーだ)にかけ、エアコンの吹き出し口近くに引っ掛ける。琴子の髪をドライヤーで乾かす。
とにかくやるべきことはきっちりやってからーーさあ、本格的に始動だ。
(浴室はまだ前菜に過ぎない)

いつもと違った環境というのは琴子も燃えるのか、今日は随分と反応がいい。いや、いつもいいんだが、いつも以上だ。
スプリングが軋まないというのもいい。
白い布団の上に髪を散らし、畳の上に脚をはみ出させる。
聞こえるのは琴子のあえぎ声と、しとどに濡れた泉を往復する分身から発せられる水音と、肌と肌のぶつかり合う摩擦音だけだ。
おれと同じ石鹸の匂いのする琴子の肌を何度も絡めとり吸い付き、触れていない場所がないくらいに口付ける。
まだまだCカップにはほど遠い胸だが、相変わらずの感度で、先端を舌先で転がし、むしゃぶりつくと身を捩らせ反応するさまがあまりにも可愛い。
下の方もシーツに染みができるくらいに濡れて、おれを誘うのでいただきますとその蕾に舌を這わせた。

「あ…あ、入江くん、入江くん!」

何度も絶叫する。


家とは違うので琴子も安心して声を出している。いくら自宅の寝室に防音壁を設置してるとはいえ、自宅でこんな声は出せない。
たまにはこういうところでもいいが……うん、でもきっと普通の女なら嫌がるだろうな。つぎは少し洒落たシティホテルでも取ってやろう。

しかし、ここは連れ込みのくせしてコンドームは一個しかねーのか。
これから看護科に入るというのに妊娠させるわけにはいかないので、一回目だけ使って2回目以降は、外に出した。まあ風呂場でも外に出したが。
とはいえ外出しでも妊娠する可能性は5〜10%の確率だというから、安心は出来ないが、それでも妊娠したら相当運のいい精子だということだ。きっと根性のある赤ん坊に育つことだろう。生まれたら生まれたでなんとかなるに違いない。
ーーなどと心の中で勝手に思うのも男のズルさだな。大変なのは琴子なのに。
おれを手伝うために看護科を目指そうと決意した琴子……おれも最大限サポートしなくてはーーと思いつつ、すでに四戦目に突入だ。
ほんと、おまえ、生だと締まりがいいよな。
お陰でおれもすぐに元気になる。

「入江くん、入江くん、大好き〜〜!」

すでにからからに枯れ果てた声で琴子が叫ぶ。
ああ、おれもだよ。




ーー外は満開の桜が咲き乱れている。
そしてーーこの妖しげな閉ざされた密室の中でーーエンドレスな夜が空けていくーー。




このページの拍手数:1578 / 総拍手数:7915

コメントを送る

※コメントに入力できる文字数は全角で最大1000文字です

※このコメントはサイト管理人のみ閲覧できます