「散々探し回った挙げ句、大して実入りはなかったな……」

 ぶつくさと我が身の不幸を呪うかのような調子で、霖之助は夕日に赤く染め上げられた並木道を歩いていた。やがて、かつて嗅いだ事がありそうで無さそうな甘い匂いが漂う並木道を抜けると、いつの間にかまた夕日に赤く染め上げられた並木道を歩いていた。

「フムン。今日はやけに並木道が多い……」

 並木道に次ぐ並木道、やがて霖之助がようやく並木道を抜けると、少し開けた場所に出た。そこには誰かが用意したかの如く丁度おあつらえ向けに切り株があり、これ幸いとばかりに霖之助はその椅子に座り込み、一息をつくのだった。

 腰を下ろし、棒のようになった足を労りながら、真っ赤な空を仰ぎ見る。すると視界の端には何か巨大な影が通り過ぎた気がして、霖之助は思わずそちらの方へと視力を傾ける。

 そこには、全裸の女が巨大なラビアを躍動的に羽ばたかせて飛行していた。火山が活発に噴火していそうな原始的な色彩そのままに赤々と焼けた夕空を背景に飛ぶそれは、かつて太古の空を駆けていたと言う恐ろしい竜の勇姿を思わせる。
 その構図のなんと絵になる事か。鳥の軽やかな滑空とは明らかに異なり、ラビアの翼がバサバサと懸命に羽ばたいていて、いかにも重い荷物を精一杯運んでいます、といった雰囲気が充ち満ちている。その姿には、思わず手に汗握って応援したくなるハラハラ感がある。もちろんこの場合頑張るラビアが主人公で、ぶら下がっている全裸女が荷物だ。ついでに言えばその荷物にも更にやけに重そうなものが二個ほど垂れ下がっていて、鈍重この上無い。

 あぁそういえば、とふと霖之助は自分の知識に似通った光景がある事を思い出す。
 かつて大狸たちは、自らのふぐりを広げる事で自在に空を滑空したという。なるほどなるほど、雄が滑空出来るのなら、雌が空を羽ばたいても不思議ではないだろう。するとあれは狸の妖怪という事か。
 一人得心を得る霖之助。その最中も大空では、雄大なショーが引き続き繰り広げられている。その翼が作り出す非幾何学的な紋様は、ともすれば幼児の落書きのようにも見えて、要は適当極まりない調子で羽ばたき続けている。よくよく注目して見てみれば、羽ばたくラビアの邪魔にならぬよう、股はガバッと限界まで飛田涸れているのが、霖之助には何とも潔く感じられた。

 やがて迫り来る闇によって翼がどこか赤黒い色味を帯びてくると、どこへ行くともなく無軌道に女は飛び去っていった。霖之助も女を、と言うよりも上下に軌道を描くラビアを目で追うのだが、その翼はすぐに漆黒のカーテンに遮られてしまい見えなくなる。

「もう終わりか……見事な見せ物だったのだが」

 充足感と喪失感が心の満たす中霖之助は立ち上がると、自らの家に向けて並木道をとぼとぼと歩くのだった。その胸中に、自分も彼女と同じ事が出来たなら楽に帰れるのではないか、と言う考えがあったかは定かではない。





「ハッ! 夢か……」

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