かじかむ手にハァと息を吹きかけると、白い息が指に触れては消える。
空気が澄んでいるからだろうか、冬の空は遠くて。
濃い藍色の中にキラリと光る遠くの星が宝石みたいにキレイに見えた。

「おまたせ。」
聞きなれた声に振り返ると見慣れたお姉さまの姿。

「帰りましょうか。」
呼吸のたびに白い息が出ては消える。
お姉さまは珍しく少し息を切らしていた。
走ってきたのだろうか。


--『片方だけ』--



「あら…聖、マフラーも手袋も持ってきていないの?」
私の横まで歩いてきたお姉さまは、気付いたように言う。
「荷物になるので。」
かじかむ手をポケットに押し込みながら、私は答える。
「でも、それじゃあ、寒いんじゃない?」
「寒いです。」
「フフ…じゃあ、コレ。」
お姉さまは楽しそうに微笑みながら私に何かを差し出した。
薄暗い中という事もあって、
お姉さまの手の中の何かの正体も分からないまま、とりあえず受け取る。
「何ですか?」
「手袋。」
私の問いかけに、お姉さまはなんでもないようにサラッと答える。
「手袋?」
「そう、手袋。」
お姉さまの言葉通り、私の掌には片方だけの手袋。
私は反応に困って、お姉さまの方に顔を向ける。
薄暗い空の下、僅かな外灯に照らされたお姉さまは、
外の寒さとは不釣合いにほっこりと微笑んでいた。
「あの…?」
「貸してあげる。右手用ね。」
「…でも」
私が言いよどんでいると、
お姉さまは「ほら、手、貸して。」と私の目の前に手を差し出す。
私がそれに従って右手を差し出すと、
手を添えて手早く右手に手袋をつけてくれた。
「あら、ピッタリ。聖は手が大きいわね。」
お姉さまは楽しそうに言う。
お姉さまの手袋をつけた右手は、ポケットの中の左手よりもずっと暖かかった。

「暖かい?」
「はい。」
「そう、それは良かった。」
ニコニコとお姉さまは言うけれど、
私は私に手袋を貸した事で吹きさらしになっている
お姉さまの手が気になって仕方がない。
さすがのお姉さまだって、冬は寒いし、
寒いからこうして防寒具を用意しているはずだ。
それを私に貸してしまっては、お姉さまが寒い思いをする事になってしまう。

「私は大丈夫ですから、お返しします。」
お姉さまがはめてくださった手袋をはずそうと手をかけると、
「いいから。」とお姉さまの手が私の手を阻んだ。
「でも…これではお姉さまが寒いじゃないですか。」
私が口を開くと、お姉さまは「だから、片方だけなのよ。」と
自分の手元にあるもう片方の手袋を左手にはめながら笑みをこぼした。
「?」
「もう片方はね」
言いながら私の左手に触れるお姉さまの右手。
触れた手は私の手を包み込むように開く。
同じように手袋をしていないのに、私の手よりも幾分か暖かい。
「冷たい手。」
「すみません。」
「どうして謝るの?いいじゃない、手が冷たい人はね、心が温かいのよ。」
そう言うとお姉さまの手がキュッと私の手を握った。
そして、そのままごくごく自然に自分のコートのポケットに私の手を誘導する。
「こうすれば暖かい。…ね?」
同じ作りのコートなのに、お姉さまのコートのポケットは本当に暖かくて、
何だか気持ちまでじんわりと暖かくなってくる。
そのためか、普段なら「恥ずかしい」と振り払ってしまうはずの手も、
振り払うことなど出来なかった。

「…そう、ですね。」
言いながら、キュッとお姉さまの手を握り返す。
お姉さまのコートのポケットの中で繋がった左手は、手袋をつけた右手よりも暖かかった。


--おまけ:『“手を引く”と“手を繋ぐ”の境界』--


心の温かい人の手が冷たいのなら、
私の手よりもお姉さまの手の方が冷たくなければおかしい。
そう思った。


「あら…」
「?」
突然の声に、私は少し緊張する。
「初めてじゃない?」
「何がですか?」
お姉さまの方に顔を向けると、お姉さまと目があった。
次の言葉を待つ私に、お姉さまは満面の笑み。
「あなたが私と手を繋いでくれたの。」
「なっ!…そんな事ないですよ。山百合会に引っ張っていかれる時とかいつも…」
予想外の言葉に動揺。
けれど、お姉さまは涼しい顔。
「あれは私が一方的に掴んでいるだけでしょう?あなたが私の手を握ってくれたのは初めてよ。」
ニコニコと幸せそうな顔。
“手を握る”というだけの事で、こんなに嬉しそうな顔をされるとこっちの方が照れてしまう。
「そんなの、大して変わらないじゃないですか。」
照れ隠しに咄嗟に出たのはそんな言葉。
「“手を引く”のと“手を繋ぐ”では大違いよ。聖は乙女心がわかっていないわね。」
「…誰が乙女なんですか?」
「フフ。」
クスクス笑うお姉さまの顔はいつものお姉さまの顔で、
どこまで本気でどこまでが冗談なのかわからない。
「からかわないで下さいよ。」
お姉さまの掌でいいように転がされて、
不満を漏らす私に「でもね」とお姉さまは繋がった左手を少しだけ握る。
「嬉しいというのは本当よ。」
へニャと顔を緩めてお姉さまは言う。
この笑い方(?)は普段あまりしない珍しい顔。
心なしか頬が赤く見えるのは、寒さのせいなのだろうか。
それとも―…




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拍手お礼なのに長くてごめんなさい。
感想あれば、お待ちしてます!


--2009/12/08 UP
 

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