僚+ミック



人のよさそうな顔をした男が、フレームの中からミックに微笑みかける。
写真でしか知らないその男は、僚のかつてのパートナーであり、香の最愛の兄。彼の写真が置かれた陽当たりのいい窓辺は、いわばこの部屋の一等地といったところか。同じ場所に飾られた細々としたものたちも、部屋の主たる彼女にとって大切な存在だということは想像に難くない。

「ふ…」

写真立ての手前に見つけた懐かしいペンダントに、たまらず頬が緩む。『ダサい』っていってたのに、大事にしてくれてるんだな。

「さすがカオリ。可愛いことをしてくれる」

独り言のようなそれは、ドアの向こうから無言の圧力をかける男へ向けた言葉でもあった。わざわざ部屋に入るきっかけを与えてやるなんて、我ながら親切だと思う。

「…いらないもんをほっぽってるだけだろ」
「いらないもの?ふぅん?」

観念して部屋に入ってきた僚には目もくれず、ペンダントのひんやりとした感触を指先で楽しむ。柄にもなく温かさだか幸せだかふわふわした感情が溢れてくる。

「…未だに聞かれるんだよ。俺が正気に戻れたのはコイツのお陰なのに、そんな大事なものを自分が持っていていいのかって」

ばかだなぁ。誰がどう見ても、俺が自分を取り戻せたのは君だったからなのに。
唇がますます深い弧を描く。表情を緩ませたまま僚を見ると、思った以上に不細工な面構えだった。

「ぷはっ」
「…人の顔見て笑うなっての」
「すまんすまん」
「で、つまり何が言いたいんだお前は」

ん、つまりね。

「俺にとって、カオリは運命の人だってこと」

だってそうだろう。
俺とお前。
お前と槇村秀幸。
お前と香。
どれかひとつでも欠けていたら、俺は今この世にいない。
奇跡はいつ始まっていたんだ?

「なぁにが運命、だ。気色わりい」

毒ずくお前こそ、運命を結びつけた立役者なんだぜ。
思うだけで口には出さず、男の嫉妬は醜いなぁとしみじみ思った。




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シリーズ有心論
「正しい自分に出会えます」


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