アリス・ルヴァガの日々


「アリス」
「……」
「アーリースー」
「……」
黙り込むアリスに、エリーラはややどうでも良いから黙らせろと批難の目を向けながら口開く。
「いい加減、返事の一つでもしてあげたら?」
「放っておいて」
いつもの悪いくせだと思いながらも、一度意地を張るとしばらくは引くに引けない。
「アーリスってば」
「煩くて仕方ないわ、まったく、アリス以外に脳がないわけ?」
アリス以上に我慢強さのないエリーラが叫ぶと、後ろでずっとアリスコールをしていたダークは、綺麗な顔を歪める。
「俺は今、アリスに話しかけてるの」
おまえ黙れとでも続きそうな言葉に、流石のアリスも慌ててダークを振り返る。


「ダー……」
「なんっなのその態度は! 本当に顔だけの男ね、あんた!」
しかし一歩遅かったようだ。アリスとダークの喧嘩よりも酷いエリーラとダークの口論は、一度始まるとエリーラの気が治まるまでは永久続くと思われる。エリーラは立ち止まって歩いて来るダークを迎え撃つ態勢だ。
アリスも立ち止まるが、いったいどちらをどうなだめれば良いのやら、いつもながら途方に暮れてしまう図である。



「まーたやってんの?」
苦笑しながらアリスに話しかけてきたシェイドは、ダークの友人である。もちろん、アリスにも関わりが出て来る。
「……あ、シェイド。リンちゃんは?」
「今日は用事があるんだって」
「そっか」
リンちゃんが居れば一発で終わるのに、とアリスは秘策をなくしてぼんやりしてしまう。アリスとダークの喧嘩は大抵喧嘩にもなっていない。アリスが怒って無視して居ると云うのに、ダークは構わずアリスコールをして彼女を折れさせてしまう。
だがエリーラの場合、エリーラの怒りをダークが聞き流したまに反撃する、まさに幼児さながらも絵図が繰り広げられ、第三者の介入は余計な流れを作りだしてしまう。
関わらない方が身のためなのだが、いつまでも煩いのは勘弁だ。
「……帰ろっか、アリス」
「え?」
「今日はラナさんに夕飯ごちそうになるんだよ」
「あ、そうだったんだ。ならエリーラも呼んじゃおうかな」
彼女は一人で暮らしているから、たまに夕飯に呼ぶことがある。一人ぐらい増えたって問題はないだろうと、軽く思う。
「おい、シェイド、勝手にアリスと話してるな」
今の今までアリスを放っておいたくせに、いきなり番犬のように目の前に立たれても、アリスとしては苦笑するしかない。

「……ダーク、私が怒っていたはずなんだけど」
いつものことだ。アリスに何気なく話しかけてきた学生に、ダークはすぐ噛みついた。彼は別段、ルヴァガの子を意識して話しかけてきたわけではないはずだと云うのに、勝手に近寄るな、二度と話しかけるな、などの罵詈雑言を投げかけたのだ。

アリスに友人が居ないのはおそらく、彼の所為でもある。

戦争の気配を感じたのかエリーラのもとへ行ったシェイドを見送り、またダークを見ても、彼は謝る気配すらない。じっと視線で訴えかけると、
「機嫌直ったか?」
「……ダーク」
「悪かったって」
ちっとも悪くは思っていない風に云われて、アリスは深い溜め息を漏らす。
「友だちできないどころか、警戒されちゃって逆に大変なんだけど」
ぷいとそっぽを向いて歩きだすと、ダークは自信満々に云うのだ。
「問題ない、アリスは俺と居れば良い」
だから俺だけと仲が良ければ、それで問題ない。
もちろん、アリスの中で一番信頼できるのはダークだ。だが他者を排除してまでとは、何所からそんな自信が来るのだろうか。
「ダークはシェイドやリンちゃんが居るじゃない」
「……何? 男に妬かれても困るんだけど」
「違うから」
ダークが一緒に居ろと断言するのは、異性とかそういう壁を越えて、世界でただ一人、アリスにはダークが居る、ダークにはアリスが居る、そんな構図ができ上がっている。

「私にも友だちが居たって良いじゃない」
「だから、シェイドとかリンツェルと仲良くしとけば良いだろ。……それなりに」
俺の友だちと仲良くしていれば良いと云われてもどんだけ友好関係を狭めれば良いのだろう。わがままな幼馴染に怒りを通り越して、つい苦笑してしまう。
「だったらエリーラとも仲良くしてね」
「……嫌だ」
「私はシェイドやリンちゃんと仲良くするから、ダークはエリーラと仲良くしてよ」
「だから嫌だって……あ、リンツェルとはあんまり話すな」
「なんで」
「駄目なもんは駄目だ」
いきなり喚かれても困るのだが、と云うより今さらな話に、アリスは笑うしかない。追いついたエリーラがそんなアリスを見ながら、はぁと呆れたように溜め息を吐いた。
「アリスったら、簡単に許しちゃうんだから」
「あ……」
そう云えば怒っていたのだったと思い出した時には既に遅く、ダークは笑いながら追いついたシェイドを伴って先に行ってしまう。
「……まったく、兄妹喧嘩にもなってないわね」
「あ、エリーラ。ごはん食べて行かない? シェイドが今日はうちで食べるんだって」
「そうねぇ、ラナさんの迷惑にならないのなら……行こうかしら。明日はお休みだし」
「そうだ、泊まって行きなよ」
「ならアリス、明日のおでかけ、付き合ってもらうわよ。あ、男手があるのなら荷物持ちも頼もうかしら……」
「えー、何所まで行くの?」
アクティブなエリーラは早速買い物の予定を列挙し始め、アリスは苦笑しながらそれを聞く。召喚師を目指すまでの何気ない日常は、存外に騒がしかった。

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