ドラマ「陳情令」で藍忘機と魏無羨を演じられた、
王一博さんと肖戦さんをモチーフにした、空想の物語です。
「博君一肖」「BJYX」小説。BL風味。

そのあたりを受け入れられる方のみ、お読みください。



(注意)現実に存在する方のお名前が入ってますが、
内容は、全くのフィクションです。




俺は君の(前編)



マンションの部屋のチャイムが鳴った。

…こんな時間に誰だ?

風呂上り、ソファに座って濡れた髪をタオルドライしていた肖戦は、
訝し気にインターフォン画面の方に目をやった。

時間は、もう夜の10時近く。

マネージャーでも、こんな時間に来ない。
それに、急ぎの用事だったとしても、まず連絡をしてから来るはず。

スマホには、そんな着信履歴も無い。

肖戦は、立ち上がると、インターフォン画面を確認した。

「…!」

マンションのエントランス前に、王一博が立っていた。

帽子を深くかぶり、眼鏡にマスク姿。

顔はほとんど隠されていたが、肖戦にはすぐに分かった。

驚いた肖戦は、すぐにインターフォンから身を隠すように壁に背を預けて、大きく息をついた。

あちらからは、こちらは見えていないと分かっていても。

しかし、彼には、自分が今部屋にいることは分かっているのだろう。

口元に拳をあてて、しばし俯いたまま思案した肖戦だったが、
意を決して、インターフォン画面の通話を押した。

「…はい」

『戦哥、僕だ』

「ああ…。分かる。どうした?」

『中に入れてくれ。話がしたい』

「話なら、電話で出来る」

『いや。最近は僕が何度かけても留守電になるし、
メッセージを入れても、君は、かけなおしてくれない。
メールも送ったけど、返信がずっと無い。だから来たんだ』

「後で、メールに返事を送っておくよ」

『戦哥』

インターフォン画面の向こう側で、
王一博のちょっといらついたような雰囲気が伝わってきた。

『何で、そんな冷たい態度をとるんだ?
この前だって…その話もしたい。いいから中に入れてくれ。
あんたがロックを解除してくれるまで、
僕は、このエントランスでダンスのレッスンをする』

ダンスなど、彼が、1フレーズでも踊ろうものなら、
いくら夜とはいえ、通りがかりに見られた人間に、
一発で正体がばれてしまうだろう。

それくらい彼のダンスは、人の目を惹きつける。

肖戦は、深いため息をつくと、
マンションのエントランスのロックを解除した。

「部屋のドアロックを外しておくから、入ってきてくれ」

―――人に見られないように。

王一博が小さく頷いた顔が画面に映り、すぐに消えた。

肖戦は、内心の動揺を落ち着かせるように、
平静な態度を保とうとした。


…今日は、外は冷えてる。
何か温かい飲み物を準備…いや、それじゃ、まるで待ち構えていたみたいだ。
それに、長居させるつもりは無いから、もてなしなんて必要ない。

そう考えながらも、肖戦の手は正反対の動作で、
キッチンにあるポットの湯沸かしボタンを押していた。


そうこうしている内に、カチャリと玄関ドアが開く音がした。
肖戦は玄関の方に意識を向けながらも、
あえて、その方向に目を向けまいとした。

足音がして、肖戦のいるリビングに王一博が入ってきた。

「こんばんは」

「…こんばんは」

王一博の挨拶に、肖戦は固い声色で返した。

「熱い茶を飲むか?」

そう言って、肖戦は、まだ湯が沸いていないポットの前で、カップを選ぶふりをした。

「明日も午前から仕事の予定が入ってるから、用件は手短にすませてくれ」

「戦哥」

王一博の呼び声が肖戦の背中に投げかけられる。

「どうして、こっちを見ないんだよ」

「…あ?」

わざとらしく、カップボードを覗き込んでいる体でいた肖戦は、王一博の方を一瞥した。

王一博は、帽子とマスクを取っていた。

眼鏡はつけたままだったが、
その向こうにある双眸が肖戦を険しい目でハタと見つめていた。

王一博の表情は、内面に素直だった。

少年期から芸能界で培った処世術で、
内情を表に出さないように訓練もしていただろうが、
気を許した相手には、むしろ正直すぎるほどだった。

肖戦は、彼が素直に自分を出す人間の一人に、
自分も含まれていることを自覚していた。

そして、王一博は、周囲の空気にも敏感なことも分かっていた。

自分の素っ気ない態度をすぐに感じ取り、不機嫌を露わにしていた。

「何、怒ってるんだ?僕は、あんたに何かしたか?」

「何の話だ?」

肖戦の胸の内は重苦しい空気に覆われていた。
それでもあえて、すっとぼけたように問い返す肖戦に、
王一博は、足を踏み出し、距離を縮めてきた。

「この前の表彰式に会った時、態度が変だった」

「この前って?」

王一博が表彰式のイベントの名前を口にした。

二人が、ある賞をもらった時の舞台。

「僕が見ても、全然目を合わさないし、いつもと違った」

「いつもと違う雰囲気の会場だったからな。俺も緊張していた」

「理由は、それだけ?本当に緊張していたから、目も合わなかった?」

「一緒に舞台に上がったけど、あの場では、ドラマの演技を求められていない。当然だろ」

王一博の目がさらに険しくなった。

「…ドラマの演技をしなくて良くなったら、目も合わさないのか?」

「そうだ」

「でも、今までのイベントでも、他の表彰式のイベントでも、
会ったら、僕たち、もっとフレンドリーにしていただろ?」

「それは、ドラマの番宣の為に、演出していただけだ。
キャラクターを投影して見ているファンの前だからな。
君だって、そうしていたじゃないか」

肖戦がチラリと王一博の方に目をやった。

「だから、ドラマのイベント会場でも、わざと俺に触ったり、
ファンが喜ぶようなポーズをして見せていたんだろ?」

「それは…」

王一博が唇を引き結んだ。

拳を握りしめたまま立ち尽くしている王一博に、
肖戦はジェスチャーでソファに座るようにすすめた。

王一博は、黙って、ソファに腰掛けると、
背おっていたバックパックを床の上に置いた。

肖戦も、王一博のいるソファとは対面に置かれたシングルソファに腰を下ろした。
手を組み、目の前の王一博を直視せず、
肖戦はしばし目を泳がせた後、口を開いた。

「この業界の噂は俺の耳にだって入ってくる。君には彼女がいたんだろ?」

「…すぐに別れた」

「好きだったのに?」

「好きだった。
でも、ずっと付き合いたいと考えて関係を始めてなかった」

「俺には、そういう感覚が分からないよ。一博」

肖戦は、軽い吐息をついた。

「俺は、好きになったら相手以外見えなくなる。
それに、ずっとそばにいたいと願ってしまう。
それが、どんなに困難でも。だから、君のそういう所が分からない」

「それって、分かりたいって意味か?」

王一博が聞いた。

「僕のこと、気になってた?」

「いや…」

「気になっていたんだろ?そうじゃなきゃ、
どうしてこんな個人的な恋愛事情の話を持ち出したんだ?」

「君が不誠実に見えたからだ」

肖戦が言った。

「それで幻滅したんだよ。
君を無視しだしたのは、そんな勝手な理由だ」

「違うだろ?」

王一博が言った。

「言われたんだろ?本当は。
君が所属している組織や上から。行動を慎むようにって」

もう、ファンサービスや演出の枠を超えた素振りを何度も公衆にさらしてしまっていた。
これ以上は、演出という言い訳も盾に出来ないほどになってしまう。

そういうことが許されない環境で、自分たちは生きている。

何かあれば、芸能人生だけでない。
人生そのものが潰されるかもしれない。
そんな危険をおかせない。自分も、彼も…。

「…分かってるじゃないか」

肖戦が薄く笑った。

「君の方がこの世界に長いんだ。
そんな分かりきった答えを聞くために、こんな時間に俺に会いにきたのか?」

「今の答えは、分かっていたけど、あんたから直接確認したかった。
でも、ここに来た理由は他にも聞きたいことがあったからだ」

「聞きたいことってなんだ?」

「戦、僕たち、これからもずっと、あの夏の日の時みたいに付き合えないか?」

「・・・・・・」

無言になった肖戦に畳みかけるように王一博が続けた。

「ドラマの藍湛と魏嬰みたいな関係で、一緒にいられないか?」

「…ふざけるな」

肖戦が低い声をあげた。

そして、王一博を睨みつけた。

「さっきも言ったが、君のそういう所が受け入れられない。
君は軽い気持ちでそんなことを言えるのかもしれない。
でも、俺はそういうタイプじゃない。本気にしてしまう。
これ以上ふざけた事を言うのなら、今すぐ帰ってくれ」

「僕は、ふざけてもいないし、軽い気持ちで言ってるわけじゃない。
第一、そんな冗談を言うために、わざわざ身元がばれる危険をおかして、あんたの家まで来ない」

誰かに見つかったら、スキャンダルになる。

それこそ、向こう見ずの命とりの行動だった。

「電話やメールじゃ駄目だと思った。
これは、直接会って言いたかった。だから、ここに来た。
あんたもそう思ってくれてると感じたことがあったから。そうだろ?」

王一博の言葉を拒絶するように、肖戦が首を横に振った。

「もう、君は藍湛じゃないし、俺も魏嬰じゃない。
あのドラマの夏の日の関係は終わったんだよ」

「終わってない」

王一博が低くゆっくりとした口調で反論した。

「藍湛と魏嬰の物語は終わってないし、
僕たちの関係もあれで終わったわけじゃない」

「たしかに、お互い芸能界にいる以上、どこかでまた共演するかもな」

「そういう意味じゃない」

尚も食い下がろうとする王一博に肖戦は苦笑を浮かべた。

「確かに、あの夏の撮影の時は、楽しかった。
でも、これからも他のドラマの撮影をすることになるし、新しい出会いもある。
それに、君には芸能界で沢山知り合いと友人がいるだろう。何も俺に固執する必要はないはずだ」

「…ある」

王一博が肖戦を見つめて言った。


「僕はあんたの事が好きなんだ」



(To be continued)

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