いつもお読みいただきありがとうございます。
拍手のお礼に小話を書きました。よかったら、読んで見て下さい!

【小さな恋、見つけた。】の番外編です。番外は二話あります。

拍手用に書き下ろしたもので先行公開になります。
小学生カップルになりますので苦手な方はご注意下さい!




番外1 『この世界に取り残された二人』


どこにでもいる普通のカップルのように手を繋いだり、腕を組んだりと……
コナンと哀の二人が臆することなく、自分たちの関係を世間に晒しているのには理由がある。

初めはコナンにも恥ずかしいという思いがあった。
彼女との関係を隠そうというわけではないが、
告白した当初は羞恥心からむしろ以前よりもよそよそしいくらいだった。
その上、まだ二人は小学三年生。
特に進展のない日々がしばらくは続いた。

ところが、二人の関係を一気に変える出来事が起こったのだ。
それはコナンのポアロでの告白から十日ほどだったある日の放課後。

哀の夕食の買い物に付き合うついでにコナンは哀と二人で本屋へと立ち寄った。
コナンが迷わず小説コ―ナへ向かえば、哀は雑誌コーナーで立ち読みを始める。

そして、コナンが嬉しそうにミステリー小説の新刊を手にして、裏表紙に目を通していた時だった。

店内を流れていたBGMに重々しくも美しい調べの曲が流れ出す。

突如、コナンの顔色が変わった。

「灰原、あいつ、どこだ!?」と声を出してそう呟くと、
小説を放り出し、慌てて彼女の元へと駆けだした。

雑誌コーナーで彼女の姿を見つけるとコナンが叫んだ。

「はいばらぁー!」

哀は床に膝をついてうずくまり、苦しそうに胸を抑えている。
唇は青紫色に変色し、彼女の顔からは血の気が失せる。

「灰原、大丈夫か、落ち着け!」

過呼吸の発作だ!

コナンが労わるように彼女の横に腰を下ろすと、優しく声をかけた。

「俺が助けに来たからもう大丈夫だ。灰原、ゆっくり、ゆっくり、呼吸しろ」

哀が顔を歪めながら強い力でコナンの腕を掴んだ。

「ここは本屋だから……雑誌がたくさん見えるだろう。灰原、安心しろ」
「く、工藤……くん……」
「ああ、俺はここにいる。だから、落ち着くんだ。
ほら、ゆっくり、浅く、呼吸を繰り返せ」

コナンの言葉に合わせるように哀がゆっくりと浅く呼吸を繰り返す。
次第に哀の胸の圧迫感も収まっていく。

哀が落ち着きを取り戻すと、コナンは彼女の肩を抱くようにして急いで書店から外に出た。

店内に流れていたBGMとはあの地下室で聞いた『モーツァルトのレクイエム』だった。


「ほら、これ、飲めよ」

コナンがベンチに座っていた哀にスポーツドリンクのペットボトルを手渡した。

書店を出ると哀を連れてコナンは人目を避けるように公園に来ていた。
二人で話がしたかった。

コナンも哀の隣に腰を下ろすと、ホットコーヒーの缶を口に含んだ。

今は哀の頬にも赤みがさしている。

哀もスポーツドリンクで何度か口を潤すと……

「冷たいわね。コーヒーがいいわ」

コナンの方に目を向けた。
コナンがふっと小さく笑うと、自分の飲んでいたコーヒーを差し出す。

「ほらよ、交換してやるぜ」

哀からスポーツドリンクを受け取ると、コナンは一気に半分近くも飲み干してしまう。
ひどく喉が渇いていた。

「なあ、初めてじゃないんだろう」

哀は黙ったまま缶コーヒーを口に運んだ。
無言の肯定。

表面上はこの一年の間、哀には大きな変調はなかった。
けれど、あれだけひどい目にあって心の傷が簡単に癒えるはずがない。
コナンはそんなことに気づきもしなかった。

結局、自分は彼女の何を見ていたのだろうか。

蘭ばかりに気を取られて哀の気持ちを置き去りにしていた。

「ごめんな」
「なんで貴方が謝るの? 貴方のせいじゃないわ」

いや、俺のせいだ。

少なくとも自分にも責任がある。
本当は哀には宮野志保に戻って赤井秀一のいるアメリカで暮らす選択肢もあったのに……。

解毒剤は完成している。

赤井の電話には続きがあった。
灰原哀をこちらで引き取りたいと……。
アメリカには赤井の家族、メアリーや世良真純もいる。
でも、それを哀に黙って断りを入れたのはコナンだ。

阿笠博士もついてるし、自分たちに彼女を任せて欲しいと赤井に頼んだのだ。

彼女にアメリカに行って欲しくなかった。

もしも工藤新一と宮野志保に戻ったら…………
きっと彼女とは一緒にいられないだろう。

泣きじゃくる蘭を目の前にして見捨てることなんてできやしない。
いや、その前に志保が自分や蘭の前から姿を消してしまうに違いない。

工藤新一が灰原哀と生きるためには江戸川コナンの姿しかないのだ。

「ねぇ、お願いがあるの」
「なんだよ、またフサエブランドか?」
「バカね、違うわ」

哀は不満だった。
一年間も待ったのに何も変わらない関係に────。

「もっと側にいてよ。だって、私たち、付き合ってるんでしょ?」
「あっ、ごめん……」
「貴方、また謝ってるわよ」

哀の呆れたような声にコナンが彼女の耳元に何やら囁いた。
哀が擽ったそうに笑うと、コナンは彼女の手を握り締める。

暖を取るように身体を寄せ合う二人。

「オメー、寒くねぇーか?」
「大丈夫よ、十分暖かいわ。貴方は?」
「俺も……あったかいぜ」

この広い世界にたった二人、この小さな姿で取り残された。

それでもコナンも哀も幸せだった。
誰にも邪魔されることのない二人だけの領域。

彼女と触れ合った身体の半分だけが熱を持ったように暖かい。

コナンが見つけた運命を共にする相棒、互いに必要不可欠な半身だから。

『オメーもずっと俺の側にいてくれよ。灰原、大好きだよ』

二人は時間を忘れたようにいつまでも公園のベンチで肩を寄せあっていた。




終わり。

初出 2017.3.3




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