七海×秋一

手が汚れている時、眼に痛みが走るのはちょっとした緊急事態。
其処が綺麗な水場だったら早急に対処出来るのに。
よりによって、土弄り中に起こるなんて秋一にとって最悪。

慌ててプランターに投げ出したシャベル。
ベランダから逃げ帰ってきたリビング、片目では足取りも頼りない。
そうこうしているうちに溜まる涙。
視界がぼやけてきてしまっては、ますます不安定。

「……見える?」
「もうちょっと頑張って開けてみ、大丈夫だから。」

部屋を抜けて洗面所に辿り着くまですら遠い。
情けなく床に座り込んだ秋一の顔を、膝立ちの七海が覗き込む。
身長差が大き過ぎて止むを得ずの体勢。

目頭に刺さっていた睫毛一本。
七海の指先で、溢れかけた涙ごと払われる。

「ありがと……、まだ痛むけど……」

こんな小さな物で大騒ぎ。
此の先、もし視力が落ちてもコンタクトなんて無理な話。
全く訳が違うと誰に言われようと。
眼を直接レンズで覆うなんて、考えるだけで怖くなる。

「七海、目も悪くないのにカラコンってよく平気だね……」
「お洒落の為なら。」

紫でも黒でも、いつでも自信たっぷりな猫目。
長い睫毛は余裕を縁取る。

*約30の嘘 或る二人「正しい睫毛」

このページの拍手数:1 / 総拍手数:1461

コメントを送る

   

※コメントに入力できる文字数は全角で最大1000文字です

※このコメントはサイト管理人のみ閲覧できます