拓真×遼二

ほんの少量の卵白を垂らすだけで粉砂糖はとろとろ溶け出す。
丹念に練られた真っ白なベース。
食用色素は慎重に、分けたボウルの中で淡いピンクや青に染まる。
絞る為のコルネ袋に詰めたらアイシングの準備完了。

手に取ったキャンバスはクッキー。
コルネ袋を軽く握れば、尖った先端から描かれる甘い花模様。


「笑える光景ですね。」
「やめろ、傷付くから……」

無骨な男の手が可愛い物を作り出す様。
拓真が製菓、と云うのは意外に思われる方が多い。
いっそ堂々と華やかで大きなケーキの飾り付けなら似合うのだが。
ちまちました焼き菓子、一つずつ丁寧に。
これまた真剣な表情で向き合っているものだから可笑しい。

一発勝負なのだから仕方あるまい。
ぐずぐず時間を掛けていたら、すぐに固まってしまう。

「貰って良いですか?」

そんな訳で、慣れていても失敗作は出来る。
花弁が不揃いの物が一つ。
歪んでしまったとは云え、愛らしい色彩のクッキー。
遼二が噛み付くと乾いた音。
呆気無く割れて、粉を飛ばして花が散った。

出来たばかりの作品だけに、勿体無い気持ちだったけれど。
遼二の指先と唇に擦れたアイシング。
確かに存在していたのだと、甘い欠片を残して。

*約30の嘘 或る二人「あなたに残っている石膏」

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