「六家の秘密」



「あ、夏流。

久々に「六家の集い」があるから参加して来る。」

「…六家の集い?」

初めて聞く忍の言葉に夏流は首を傾げて聞き返した。

夏流の様子に笑いながら言葉を続ける。

「夏流には言ってなかったっけ?

「六家の集い」と言って、兄貴達が催す「六家の集い」と姉貴達が催す「六家の集い」がある。

今回、俺が参加するのは姉貴達の「六家の集い」。

姉貴達は今日の集いで夏流を是非紹介して欲しいと俺に言って来たが…。

正直な話、俺は結婚する迄夏流をあの集いに連れて行きたく無い。

いや、一生、参加させたく無い!」

忍の何処か嫌悪を感じる口調に、夏流は不思議な眼で見つめた。

それ程、忍の表情が苦渋に満ちているのが窺えた。

「珍しいわね、忍がそんな顔をするなんて。」

夏流の問いに、一瞬言葉を濁す忍。

忍の困惑を感じ取った夏流はそれ以上、問いただす事を控えた。

流石に自分の躊躇いが伝わったのを知った忍は、少し間を置き、重い口調で夏流に話しだした。

「姉貴達が、生まれた時から「六家ガールズ」と言われている事は話した事があったっけ?」

忍の言葉にかぶりを振る。

知らない様子を忍に伝える素振りに忍は目を伏せ、話を続けた。

「姉貴達は…。

俺の父親である「成月涼司」の花嫁候補として、この世に生を受けたんだ…」

忍の言葉に一瞬何を言ったのか理解をするのに時間を要した。

それ程忍の言葉は、夏流の常識を逸する話だった。

「俺の義父である坂下浩貴を始め、輝さんの父親である高槻和輝さん、更科紘一さん、本間充弘さん、宮野俊治さん、笹崎憲彦さん…。

この方々は俺の実父の大学時代の同期で、そして親友であった方々だったらしい…。

いや、親友と言う言葉は控えた方がいいのだろう。

あの方々は俺の実父の信某者達と言葉を置き換えた方がいいのかな?

それ程、実父はあの方々に盲愛されていた…。

本当は後3家存在していたんだが、その3家を義父達は排除したらしい。」

「それはどういう事?」

夏流の問いに更に言葉を重くする忍。

「…実は、その3家の方々は女性だったんだ…。

大学時代、実父は異常な程、同性にも異性にも持てたらしい。

その中で名の通った名家の生まれで熱烈な信某者達である六家の義父達と3家の方々が大学時代、派閥争いと名の
馬鹿げた騒動を起こしていたらしい。

義母さんにその話の一部を聞いて俺は…、正直、義父さんに対する尊厳という物を一瞬にして砕かれてしまった。

それ程、俺の常識を覆す内容だった…」

ふううと息を吐く忍の様子に夏流は、忍だって私の常識をかなり超えた言動と行動をしてるじゃないと心の中でごちた。

「そしてその3家はどうなったの?」

「ああ、親父達の徹底的な防御のお陰と言うべきであろうか…。

敗北して他の大学に転入手続きを行って、大学を去った。

その一家の女性が今俺が働いている、「斎賀総合病院」の経営者であり、斎賀グループの女帝と言われる斎賀琴音さんだ。

彼女は独身を貫き俺の実父を愛し続けている。

そして残り2家の方々もいずれも名の通った家柄の女性で今も独身だと窺っている。 」

忍のスケールの大きい(?)話を聞き、夏流は深い感銘を受けていた。

「で、それと朱美さん達がどうして忍のお父様の婚約者候補だった事と関係する訳?」

「…ああ、それはね。

俺の実父に生涯に渡って愛し続けた女性が存在した。

その女性が父親が大学在学中に亡くなった。

まだ二十歳の若さで。

その時、父親の子供を身ごもっていたらしい。

愛する女生と子供を一瞬に失った父親は、一生涯、結婚はするつもりは無いと言っていた。

実際、俺の母親と結婚したのも、成月の血筋を絶やさない為であった事を俺は知っていた。

俺の名前の由来を母に聞いて、俺は母が余りにも不憫で可哀想だと心の中でいつも思っていた。

母は生来、大らかで優しい女性だったから表にそんな素振りを見せなかったが、かなり辛かったと思う。」

「…忍の名前の由来って?」

「ああ。

普通、成月の継ぐ者は名前に、「司」と言う言葉が入る。

だが、父は俺の名前に「司」は入れなかった。

そう。

亡くなった女性の名前は「忍」だった。

俺はその女性の名前から貰ったんだ…。

父親の彼女に対する想いの深さを俺は身を以て知った。」

「…。」

「実父を盲愛していた義父達はどうにか実父と血縁関係になりたいが為に、事もあろうか自分たちの娘を
実父に宛てがおうと考えたらしい。

子供の頃から実父の好みに育てたなら結婚の意思を示す様になるかと…。

実にバカらしい話だが、義父達は直ぐさま実行に移した。

そして兄貴達が生まれた二年後に、姉貴達が生まれた。

それが「六家ガールズ」

そして今から行く「六家の集い」は姉貴達が亡き父を偲んで催す会なんだ。

定期的に行われるそうだが…。

俺が無くした記憶が蘇り全てを受け入れた事を知った姉貴達は、俺に毎回、その会に誘う様になった。

俺の姿を見て亡き父の面影を見ようとしているんだろう。

実際、俺の姿は父親によく似ているから。」

ふ、と微笑み忍の笑みが自虐的に思えるのは自分の勘違いであろうか?

もしかして忍は余り亡くなった父親を…、夏流はかぶりを振りながら自分の考えを打ち消した。

「姉貴達は俺たちの間に生まれる子供に関心を示しているらしい。

兄貴達に聞くとどうも亡き父に操を立て、一生、結婚はしないと豪語している。

そして俺たちに息子が生まれたら、その子供に自分たちの人生を捧げると…。

聞いて俺は義父と実父を軽蔑したよ。

姉貴達に「成月涼司」と言う呪縛を与えたのだから…。

最初そう思いながら、その会に参加したんだ。

だが、その考えが打ち消されるとは夢にも思わなかった。

姉貴達は俺の姿を見て、幸せそうに微笑むんだ。

頬を染め目を潤ませ、そして「ありがとう」、と俺に感謝する。

生まれてくれて、本当に有り難うと言い、俺の存在に自分たちがどれだけ救われたかを言うんだ…。」

「…」

「その言葉を聞くと何も言えなくなる…。

だから俺は毎回、その会に参加する。」

「忍…!」

「夏流には正直、参加して欲しく無い。

夏流を連れて行くと、すぐ、子供の事を言われる事が解っているから。

そうなると、やれ産み月は何時がいいとか、出産の時期は自分たちが面倒見るとか、男子が生まれたら、
求婚してもしてもいいかと言いそうで…、俺は何を言われるか今から考えると冷や汗が…。

確かに姉貴達には心から同情すべき事もあるし、幸せになって欲しいと言うのも事実だ。

だが、自分の息子に愛を囁かれると考えると…、ねえ」

何時に無くマトモな事を言う忍に、「ああ、忍でも一応は常識を持ち合わせていたんだ…」と心の中で変に感じ入っていた。

「…そうねえ」と頷きながら、何時か自分たちに生まれるであろう息子に、彼女達が求愛するのか、と言うのを心の片隅で浮かべていた。

そして、それが実に9年後に実際に行われ、そして息子がその思いを受け入れる様になるとは、今の夏流には夢にも思わなかった…。

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