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約束
écrit par asu










「かぁーい」
 
私の初めての言葉は、ママでもパパでも無くて楓維くんの名前だった。
 
パパは、ショックで三日間寝込んだそうだ。
 
 
はじめの一歩は
 
「パパには、ママと楓維くんの前でってなってるけど、本当は、ママがちょっと目を離した隙に、楓維くんに手を伸ばして歩いてたのよね。
 
寝返りもお座りも立っちも楓維くんに一番初めにお披露目だったもんね。ホントブレないわよねー」
 
ママは大きな目を三日月にしながら私の頭を優しく撫でた。
 
 
 
そんな私の初恋は、もちろん楓維くんだった。気づいたら好きだった。いつから好きになったかなんて分からないけど好きだった。
 
5才の時
パパとママに、楓維くんのお嫁さんになる!って宣言したら
 
「初恋は実らないって言うからな」
 
パパが意地悪なコトを言った。パパをギャフンと言わせようと
 
「……ママの初恋はパパだったから、私……その内、牧野になっちゃうのかな」
 
瞬きしないでパパを見ながら一粒の涙を流した。パパは慌てて
 
「実る。実る。絶対に実る」
 
大声で口にしてた。
 
ママはパパの後ろで呆れたように笑ってた。
 
 
 
パパの不吉な予言が当たったかのように……初めての失恋も楓維くんにだった。
 
「楓維くんが好き。付き合ってください」
 
15才の私の一世一代の告白に、楓維くんは
 
「俺の好みは、沈魚落雁 頭脳明晰 博学多才 品行方正 純情可憐 春風駘蕩 迦陵頻伽 八面六臂の大人の女だ」
 
意味の分からない言葉で返してきた。分かったのは、楓維くんの薄茶の髪が陽に透けると凄く綺麗ってことと、振られたんだってことだけだった。
 
泣くもんかって思った。泣いたら負けだから
 
「楓維くんに振られちゃった」
 
笑ってママに報告した。ママは
 
「そっか」
 
そう言ってから、私の好物をテーブルいっぱいに作ってくれた。
 
 
 
次の朝、陽の光に輝くパパの薄茶の髪を見たら泣けてきた。パパは何にも聞かずに黙って私の隣に腰掛けた。
 
 
何にも言わずに……ずっとだ。
 
 
気がついたらママと弟は、部屋の中から消えていた。  
 
 
「……パパ、お仕事は?」
 
私の問いに
 
 
「有休消化」
 
と微笑みながら答えた。
 
この所忙しくて、大好きなママともゆっくりお話ししてないのに……と思ったら、またいっぱい泣けてきた。
 
ヒックヒックしながら、パパに楓維くんに振られたって話をした。パパは黙って最後まで話を聞いたあと
 
「……あきらめるの?」
 
そう言った。私は大きく頭を振って
 
「あきらめない」
 
そう言い返した。
 
パパは柔らかく微笑みながら、私の頭を撫でてくれた。
 
 
大好きなお昼寝を返上して、今まで怠けてた全てのことを頑張った。
 
「類の遺伝子半端ない」
 
ママが目をまん丸くして驚いてた。パパが隣で
 
「明るくて頑張り屋で真っ直ぐで、誰もが好きにならずにいられないのは、つくしの遺伝子だけどね」
 
なんて惚気てた。
 
でも……楓維くんが並べ上げてた理想とやらに近づくために2人の遺伝子に感謝だ。
 
 
高校の卒業式の日……
楓維くんの周りを私の味方にする為に、パパとママの目を盗んで単身渡米した。結果は上々。大学進学と居候先を手にして帰ってきた。残念だったのは、楓維くんが居なかった事。
 
パパに怒られるのを覚悟して家に戻ったら
 
「あら 貴女どちら様?」
 
冷たい視線で怒るママとそれを宥めるパパがいた。その背後に何故か楓維くんがいて……
 
「バカかお前は! つくしさんと類さんがどれだけ心配したと思ってんだ」
 
いつも大人の楓維くんが今まで見たことないほど怒ってた。
 
「だって だって ちゃんと話してもパパが聞いてくれないと思ったんだもん」
 
「もんじゃねぇよ このバカ 未成年は親の言うこと聞いて、家でじっとしてろ」
 
「バカバカ言うな バカ楓維」
 
「はぁっ? バカにバカって言って何が悪いんだ。
 
それにだ。お前留学勝手に決めただろ。しかも……なんでうちじゃなくて道明寺邸から通うことになってんだ。
 
ハァッー おかげで…… 道明寺のお婆様方は大張り切りで、アンダーソンのお婆様方は落ち込んでる」
 
 
「……留学したいって言ったら楓維くん駄目だって言ったじゃん。でも、ちょっとだけでも楓維くんの側に居たかったんだもん。でも、アンダーソンのお婆様に頼んだら楓維くんにバレちゃうから」
 
「ハァッー 俺、9月から日本だ。
 
高校卒業するまでは手出しすんなって類さんに言われたから……ようやく許して貰えるようになったから日本に来る算段つけたのに。ったく、よりによってコレかよ
 
ハァッー 遠距離恋愛決定な」
 
 
「えっ」
 
私が驚いて声を上げた瞬間
 
「えっ」
 
ママの声がして
 
 
そして……パパが逃げていた。
 
 
そんなこんなが……私の恋が叶った瞬間だった。
 
 
 





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